第17話 とある魔法少女たちの連戦
某日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
厄災レベル七、敵数2756、平均厄災レベル六。
「先輩、囲まれます……!」
「囲ませてんだっての! これで! 一網打尽! だっしゃらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なるほど、そういう……それでは右舷をしばらく障壁魔法で保たせますので、その間に! 《プリズム☆カーテン》っ」
「おっしゃ、ナイスアシストおっさん!」
戦闘開始より3時間24分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜1992体(出撃魔法少女中一位)、山田和夫603体(同二位)。
◆ ◆ ◆
翌日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
厄災レベル八、敵数5万8911、平均厄災レベル四。
「えーい、数多すぎ! おっさん右! アタシ左! 二手に分かれるよ!」
「了解です!」
「どっちが多く倒せるか競争ね!」
「はは……了解です」
戦闘開始より10時間57分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜2万4999体(出撃魔法少女中一位タイ)、山田和夫2万4999体(同一位タイ)。
◆ ◆ ◆
翌日、第十階位以上の全魔法少女に対する出撃要請が発令。
厄災レベル九、敵数200、平均厄災レベル八。
「アタシが掻き回す! みんな、その間に各個撃破して!」
「先輩、いくらなんでも一人では無茶です。私も……」
「おっさんまでこっちに回ったら火力不足で倒しきれないっしょ! そっち、頼むかんね!」
「……了解です」
戦闘開始より5時間13分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜1体(出撃魔法少女中八位タイ)、山田和夫179体(同一位)。
◆ ◆ ◆
同日、真山結菜及び山田和夫に対する出撃要請が発令。
厄災レベル九、敵数1。
「硬っ! なんなのコイツ!?」
「しかし、全く効いていないというわけではなさそうです……出来るだけ一点を集中して狙って突き崩しましょう!」
「それっきゃないか……あーもう! イライラする!」
「私が陽動に回ります! 先輩は、そのイライラを思う存分ぶつけてやってください!」
戦闘開始より8時間36分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜1体(出撃魔法少女中一位)、山田和夫0体(同二位)。
◆ ◆ ◆
翌日、魔物発生ポイント周辺で任務を遂行していた魔法少女十名に対する出撃要請が発令。
厄災レベル五、敵数800、平均厄災レベル四。
「チョロチョロと鬱陶しい……さっきから全然減らせてないじゃん! こいつら、絶対統率取れてるよね!? これだから厄災レベルは当てにならないんだよ!」
「しかし、それは裏を返せば動きを読むのも可能ということ……今です先輩、仕掛けておいた睡眠魔法にまとめて掛かりました!」
「えっ、おっさんそんなことやってたの……!? りょ、了解! ぜぇぇぇぇぇぇい!」
「お見事です、先輩!」
戦闘開始より46分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜800体(出撃魔法少女中一位)、山田和夫0体(同ニ位タイ)。
◆ ◆ ◆
翌日、第十階位以上の全魔法少女に対する出撃要請が発令。
厄災レベル八、敵数8911、平均厄災レベル七。
戦闘開始より5時間17分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜4900体(出撃魔法少女中一位)、山田和夫3112体(同ニ位)。
同日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
厄災レベル七、敵数1万、平均厄災レベル六。
戦闘開始より1時間17分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜1万体(出撃魔法少女中一位)、山田和夫0体(同ニ位タイ)。
同日、第八階位以上の全魔法少女に対する出撃要請が発令。
厄災レベル九、敵数4、平均厄災レベル九。
戦闘開始より19時間17分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜2体(出撃魔法少女中一位)、山田和夫1体(同二位タイ)。
翌日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
厄災レベル九、敵数17万8911、平均厄災レベル五。
戦闘開始より29時間38分、掃討完了。
討伐スコア、真山結菜5万1004体(出撃魔法少女中ニ位)、山田和夫11万2136体(同一位)。
◆ ◆ ◆
翌日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
同日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
翌日、第九階位以上の全魔法少女に対する出撃要請が発令。
翌日、真山結菜及び山田和夫に対する出撃要請が発令。
翌日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
同日、真山結菜及び山田和夫に対する出撃要請が発令。
同日、真山結菜及び山田和夫に対する出撃要請が発令。
同日、真山結菜及び山田和夫に対する出撃要請が発令。
翌日、第七階位以上の全魔法少女に対する出撃要請が発令。
同日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
翌日、真山結菜及び山田和夫に対する出撃要請が発令。
翌日、真山結菜及び山田和夫に対する出撃要請が発令。
同日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
同日、出撃可能な全魔法少女に対する出撃要請が発令。
etcetcetcetcetcetcetcetc……。
◆ ◆ ◆
「ぜぇ……ぜぇ……こちら真山……掃討完了……」
大きく肩で息をしながら、結菜が《アガレス》を介して報告を上げる。
今回の厄災レベルは七。
敵数7000に平均厄災五と、最近の中では比較的楽な部類の出撃であった。
尤も、これで本日三回目の出撃ともなれば身体は『楽』と程遠い状態なわけだが。
「お疲れ様でした、先輩」
結菜ほど激しい戦闘スタイルではないこともあって息こそ切らしてはいないものの、和夫の額にも大粒の汗がいくつも浮かんでいた。
「ん……おっさんも、お疲れ」
息を整えた結菜が答える。
「しっかし、どうなってんのこれ……? いくらなんでも出撃多すぎでしょ……」
そして、訝しげな眉根を寄せた。
この一ヶ月で、結菜と和夫の出撃回数は実に八十二回にも及んでいるのだ。
文句の一つも言いたくなろうというものである。
「やはり、よくあることというわけではないのですね」
「少なくとも、アタシが魔法少女になってからはこんなの初めてだね」
「というか、だミル」
和夫の肩に乗ったミルクが口を挟んだ。
その表情は、珍しく真剣味を帯びている。
「魔法少女管理機構設立以来、こんな頻度で魔物が出現したケースは過去に一度しか存在しないミル」
「ふーん? じゃあ、一度目は?」
何気ない調子で尋ねる結菜。
「十年前」
しかしミルクがそう口にすると、ギクリと顔を強張らせた。
「かの『大厄災』の直前にも、今回と同じように異常なペースでの魔物の大規模出現が確認されているミル」
『大厄災』。
それは、多くの人にとって痛ましい思いと共に記憶に刻まれている出来事である。
十年前。
かつてないほど大量の、そして強力な魔物が人の世界を蹂躙した。
多くの建造物に致命的といえるまでの損傷を与えられつつも、死者が十余名に抑えられたのは奇跡といっていいだろう。
そしてその奇跡を成し遂げられたのは偏に、当時最盛期を誇っていた魔法少女たちの活躍によるところだ。
ただし、その代償として魔法少女界が失ったものも大きかった。
東雲佳奈という名の魔法少女を。
当時の、そして今なお絶対視されている程のエースを失ったのだ。
一名のみとはいえ魔法少女にまで死者が出たこの出来事が、今日まで続く長年の魔法少女不足を加速させた要因でもある。
「……あれが、また起こるっての?」
ギュッと拳を握りながら、低い声で結菜が尋ねる。
その顔面が蒼白なのは、疲労のせいだけではあるまい。
「実際のところは、まだなんとも言えないミルね。ただ、機構としてはその可能性は十分あると見ているミル」
やや表情を緩め、ミルクが肩をすくめた。
「ちなみにこれ、結菜と和夫だから言ってるミルからね。余計な混乱を避けるため、まだ他言は無用ミル」
「了解しました」
「……了解」
和夫と結菜、それぞれ頷く。
その双方に、単なる過去の大災害の再来に対する怖れや覚悟以上の感情があることに。
お互い気付いてはおらず、ミルクだけが思案顔となっていた。
◆ ◆ ◆
それから、更に数日が経過した。
その間、出撃回数が一回以下だった日は一度もない。
本日も三度目の出撃で、全魔法少女を動員しての大規模作戦がつい先程終わったところだ。
「おーう! お疲れ、結菜、山田サン」
あらかじめ決めてあった集合場所に降り立つと同時に、菜種が笑顔で結菜たちに呼びかけてくる。
「今日も大活躍だったな! 流石エースコンビ!」
ここしばらくの活動により、結菜だけでなく和夫の実力も広く認知されるようになっていた。
戦場によっては結菜すら霞む程の活躍をすることさえあったのだから、それも当然と言えよう。
「って、大丈夫かよ結菜……?」
結菜の顔を見て、ふと菜種が眉をひそめた。
「何が……?」
息を整えつつ、結菜が問い返す。
「顔色悪ぃぜ? 疲れてるんじゃねぇのか?」
「そりゃ疲れてるよ。でも、そんなのみんな一緒でしょ?」
言って、まだ若干上下する肩をすくめた。
「一緒じゃねぇよ。明らかにアンタらの出撃が一番多いし……中でもアンタが一番動いてんだろうがよ、結菜」
菜種の表情が、若干険しいものとなる。
「だってアタシ、エースだもん。そんなの当然っしょ」
やや青い顔ながら、結菜は事も無げにそう言った。
その断定口調に、若干たじろいだ様子を見せる菜種。
「…………あー。その、さ」
しかし少しの逡巡を挟んだ後、やや言いにくそうに再び口を開く。
「やっぱ、もうちょっと連携とか取らねぇ? その方がアンタらの負担も減らせるしさ。今はお二人サンだけでどうにかなってるけど、もっとやべぇどうしようもない事態になった時とかに備えて……」
「必要ないよ」
菜種の言葉を遮って、結菜は冷たく言い放った。
「アタシが全部やっつけるし、どうしようもない事態になってもアタシがどうにかする。それでいいでしょ?」
「そうは言うけどよ……」
「大体さ」
食い下がってくる菜種の言葉を再び遮る。
「アタシがどうにも出来ないような状況で、みんなの力が加わったところで何か変わることなんてあるの? おっさんならまだしもさ」
その口調はやはり、ただ淡々と事実を述べる響きを伴っていた。
実際問題、この一月の実績を見れば実に九割以上の魔物は結菜と和夫によって滅ぼされているのだ。
残りの一割弱についても、もう少しだけ戦闘時間が伸びただけで結菜と和夫の二人だけで十分対処可能だったと言える。
その事実を認識しているからだろう。
周りの魔法少女たちは俯いたまま、異論を挟める者はいないようだった。
「たはは……」
菜種も、その笑顔がほとんど崩れかかっている。
「やー……ウチら、そんなに信頼出来ないかねー……?」
やや冗談めかした菜種の言葉に、結菜は小さく嘆息した。
「それ、言葉にしないとわからない?」
空気が凍る。
「そ、そんな言い方はないんじゃないッスか!? 皆さん、結菜さんのことを心配してッスね……!」
そんな中、意を決したように一人の魔法少女が口を開いた。
「言い方を変えればいいの?」
「っ……」
しかし結菜に氷点下の視線を向けられると、気圧されたように口を噤む。
「じゃあ、こう言おうか」
一同を見回し、結菜。
「アタシにとっては、みんな足手まといだよ」
そして、平静な口調でそう言い切った。
「だからアタシがみんなに望むのは、アタシの足を引っ張らないようにすること」
踵を返す。
「それだけ」
背中越しに言って、結菜は歩き始めた。
それから、一歩、二歩、三歩目で。
糸が切れた操り人形のように、突然膝から崩れ落ちた。
「先輩っ……!?」
傍らにいた和夫が、ギリギリ地面に衝突する前にその身体を受け止める。
和夫の腕の中で、結菜は蒼白な顔で荒い息を吐いていた。
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