第14話 とある魔法少女たちの衝突
「おう、おつかれ! 全員いるなー?」
結菜と和夫が集合場所に到着したところで、菜種が一同を見回して笑顔を浮かべた。
「みんな、怪我はねーかー?」
菜種の問いかけに、『ないでーす!』と少女たちが唱和する。
尤も、瘤やら切り傷やら青痣やら、実際全くの無傷という者は稀であった。
魔法少女的に『怪我』というのは、自動治癒の範疇で治りきらないものだけを指すのだ。
概ね、一般的にはそれを致命傷と呼ぶのだが。
そんな少女たちを見る和夫の目は、ほんの少しだけ細められていた。
「んじゃ、かいさーん! あんま寄り道すんなよー!」
『はーい!』
元気よく返事し、少女たちは三々五々に散っていく。
すぐに《箒》に乗って飛び去る者もいれば、その場に留まり同僚の魔法少女と談笑を始める者もいた。
どちらかといえば、後者の方がやや多いくらいの割合か。
「おいっす結菜、今日も大活躍だったな」
そんな中、菜種が気やすげに手を上げながら結菜に話しかけてきた。
「別に。このくらい、普通だよ」
チラリと菜種に目を向けただけで、結菜はそっけなく答える。
「かーっ! 流石エース様は言うことが違うねぇ!」
結菜の態度を気にした風もなく、菜種はガッと結菜の肩に腕を回した。
「一緒になんのは三ヶ月ぶりくらいだっけか? また出力も精度も上がってたじゃん」
「そういうみんなは、ほとんど変わってなかったね」
回された手を払いながら、結菜が冷たい響きを伴って言い放つ。
さして大きい声でもなかったにも関わらず、それはやけにクリアに空気を震わせた。
談笑していた周りの少女たちが、例外なく口を噤んで黙りこむ程に。
「魔法陣の最適編成に必要ない魔印まで混じってる。狙いが甘い。それで討ち漏らすから、焦って余計魔法陣が歪む。ちゃんとトレーニングしてるの? 何万回と身体に叩きこめば、どんな状況だって常に理想の動きが出来るはずだよ。戦闘中に固まるなんて論外もいいとこ……っ」
言いながら、結菜は自分の手を見て小さく舌打ちした。
その表情には、先日暴漢相手にまさしく身を固めることしか出来なかった自分への忸怩たる想いが見て取れる。
「……ここを、どこだと思ってるの?」
それでも結菜は視線を上げ、表情を改めそう言った。
浮かべるのは、氷点下の侮蔑。
「そんな風にしてると、いつか」
早口に続ける。
「死ぬよ?」
そして、殊更冷たい響きを伴って告げた。
そのまま、結菜は歩き始める。
周りの魔法少女たちが、表情を強張らせているのを横目で見ながら。
「行くよ、おっさん」
振り返ることもなく、結菜は一言そう言って《アガレス》に跨がり飛び立つ。
「はい、先輩」
和夫も、それだけ言って結菜に続いた。
◆ ◆ ◆
しばらくの間、沈黙を保ったまま二人はただ黙々と空を飛んでいた。
「……おっさんは、何も言わないんだね」
数分の後、結菜がポツリと呟く。
顔は前に向けたまま。
「と、言いますと?」
こちらはしっかり結菜の方に顔を向けて、和夫が首をかしげた。
その仕草は随分大げさで、実際には結菜の言葉の意図を悟っているのであろうことは明白だ。
「皆と仲良くしろとか、そういうこと。ミルクや菜種ちゃんなんて、一時期それしか口にしなかったくらいなんだから」
変わらず前を向いたまま、結菜。
視界の端で、和夫の肩に乗ったミルクが肩をすくめているのが見えた。
「先輩にお考えがあるなら、後輩としては従うまでですよ」
和夫が浮かべるのは、いつもと変わらない笑顔だ。
「ハン」
結菜は、鼻で笑って見せた。
そうして初めて、自分の表情が随分と強張っていたことに気付く。
「おっさんの、そのなんでもわかってますって感じのとこ」
視線は、前に向けたまま。
「ムカつく」
口にした言葉とは裏腹に、結菜が浮かべるのは穏やかな微笑となっていた。
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