第13話 とある魔法少女たちの合同作戦

「うおりゃぁぁぁぁ!」


 《マジカル☆クロウ》を纏った結菜の腕が、魔物を斬り裂く。


「《ラブリー☆ボム》っ」


 和夫の描いた魔法陣から様々な蛍光色の爆弾が大量に産み出され、次々魔物を爆破していく。


 魔法少女VS魔物の構図は、魔法少女側の圧倒的優勢で推移していた。


 というか、魔物の大半が結菜もしくは和夫によって消滅させられている。


 突出して先行する結菜が魔物の前線を食い破りつつ手当たり次第に攻撃し、そにれよって開いた隊列の穴を広げる形で和夫が追随。

 残った魔法少女たちは、二人が打ち漏らした魔物を掃討……という、結菜が言った通りの形になっている。


 戦闘開始時には数千単位で遊園地を占拠していた魔物の群れは、ものの一時間と少しで今や十分の一近くまでその数を減らしていた。


「……チッ!」


 突如小さく舌打ちして、結菜がその進路を大きく変更する。


 その先では、一人の魔法少女が魔物と対峙していた。


 猛烈な勢いで宙を駆けてくる馬のような形状をした魔物に、少女は連続で魔法を放つ。

 しかしそのどれもが命中せず、それどころか焦った少女が放つ魔法はどんどん明後日の方向へと飛んで行くようになっていた。


 たまに偶然のように当たる魔法もあるが、魔物をほとんど傷付けるに至らない。

 そんな魔法を物ともせず、ついに魔物が少女の元まで辿り着いた。


 ガパッと顔の半分近くまで開いた魔物の口には、その馬のような姿とは裏腹に鋭い肉食獣の牙が並んでいる。


「ひっ……!?」


 自らに迫るそれを、少女は身を竦ませてただ見つめていることしか出来ない様子だ。


「だっ」


 今にも少女を飲み込まんとしていた口の中に、横合いから超高速で飛来した結菜が魔力の爪を纏った手を突っ込んだ。


「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 分厚いナイフのような牙に傷付けられるのも気にせず、結菜はそのまま腕を横に振り抜く。

 すると、まるで紙で出来ていたかのように魔物はあっさりと切り裂かれた。


「あ、あ、あ、ありが……」


 少女が、結菜への礼を口にしきるより前。


「先輩、後ろです!」


「っ!」


 和夫の警告に、結菜が少女を大きく突き飛ばしながら鋭く振り返る。


 五十メートル超の観覧車を引き倒しながら、最後のあがきとばかりに数百の魔物が結菜に向かって突っ込んできているところだった。


 虎を形取るもの、鷲を形取るもの、あるいは地球上には存在しない異形を形取るもの。

 姿形は異なれど、その凶悪そうな面構えだけは共通している。


「しゃ! ら! く! せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 雪崩のように押し寄せるそれらと真っ向から対峙し、結菜は犬歯を剥き出しにして《アガレス》を握る手に力を込めた。


 《アガレス》の先端から積み重なるように百余に渡る魔法陣が展開され、《アガレス》は超大な太刀の如き様相を呈す。

 それをブンと軽々振り回し、百以上の魔物を巻き込みながら結菜は観覧車を真っ二つに両断した。


 それでも、まだまだ残っている魔物たちが結菜へと殺到する。


「先輩、援護します!」


「いらない! おっさんは追討に集中して!」


「っ、了解です……! 《フラワー☆バブル》っ」


 一瞬だけ逡巡した後、和夫はシャボン玉で出来た花を大量に生み出した。


 魔物の多くは結菜の方へと向かっているが、少数ながら周囲へと散らばっていくものたちもいる。

 それらに狙いを絞って、シャボン玉の花を射出。


 虹色に輝くそれが宙を舞う様こそファンシーだが、着弾した瞬間に魔物を巻き込んで爆発する光景はなかなかに凄惨である。


「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」


 その間にも、結菜は自らに向かってくる魔物を目にも止まらない速度で掃討していく。


 熊を模した魔物の爪が頬を傷付けた。

 構わず斬り裂く。


 獅子を模した魔物の牙が腿に刺さった。

 構わず擦り潰す。


 一角獣を模した魔物の角が脇腹を抉った。

 構わず張り倒す。


 魔物を引き寄せ、その尽くを一撃の元に消滅させる様はまるで竜巻のようだ。


 一秒ごとに、目に見えて魔物の数が減っていく。


「ラストぉ!」


 最後に一匹残ったチワワのような魔物は怯えたようにプルプルと身体を震わせていたが、結菜は容赦なく《アガレス》を振りかぶった。


「吹っ飛べ!」


 魔物に向けて全力で《アガレス》を振り抜いた結菜のフォームは、完全に強打者のそれであった。


 ホームランボールよろしく勢いよくすっ飛んだ魔物は観覧車の支柱にぶつかり、支柱を倒しながら消滅する。


「うしっ」


 振り抜いた体勢のままそれを見届ける姿にもまた、強打者の風格が感じられた。


「先輩、こちらも終わりました」


 そんな結菜の元に、和夫が飛来する。


「ん、おつかれ」


 先程までの鬼神の如き形相から一転、和夫に向けるのは無表情だ。


 そこに、戦いに勝利した喜びや興奮のようなものは見られない。

 むしろ、何かしらの不満を抑えている表情に見えた。


「討伐スコアが出たミルよ~」


 一方、瞳に六芒星を浮かび上がらせたミルクは機嫌良さげだ。


「結菜が1981体で、今回の出撃魔法少女中一位。和夫が1733体で、同二位。三位以下に二桁差を付ける圧倒的な大活躍っぷりミルね~。二人共、流石ミル」


「あっそ」


 賞賛の言葉を受けても、結菜の不機嫌さは変わらない。


 と、そこで【ザッ】というという音が《アガレス》及び《アモン》から響いた。


【木塚より、作戦傘下の全魔法少女へ】


 次いで、菜種の声が聞こえる。

 《箒》は、魔法少女同士を繋ぐ通信機の役割も担っているのだ。


【魔物の反応が全て消えたことを確認。総員、集合せよ。集合場所は、作戦開始地点とする】


 再び、【ザッ】という音。通信が終了した合図だ。


「だってさ、行こ」


 和夫にそう声をかけて、結菜は《アガレス》に跨がり降下していく。


 結局、その表情から不機嫌さが抜けることはなかった。

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