週末一日、日曜日限定の異世界で、俺と彼女は今日も週末だけ冒険者(仮)

106san

第1話プロローグ

 特別なことは、ないものと予測を立てたはずの人生だった。

 ルックスは平凡。身長とかスタイルも頭脳も運動神経も平凡。ただ、周りに言わせれば運が普通よりいいことが取り柄な人間。

 豪運ではない。たまに、というかよく軽い不幸な目には遭うからだ。

 でも、決定的に人生が破綻するような不幸には、ギリギリで回避する。

 だから、大丈夫なはず。

 今回も、唯一と言っていい取り柄、他力本願も甚だしいが、俺、唯一の取り柄ー悪運の豪運のおかげで大丈夫な、はず。


 現在、目の前の光景を見ながら、俺、宮下 理(ミヤシタ コトワリ)はたじろぎながら、そう考えていた。

 そんな俺のそばでは、俺が運がいいと言われる原因の一人、クラス内で一番の美人というルックスとスタイルを持つ幼馴染の少女、吉岡 珠希(ヨシオカ タマキ)が興奮した面持ちで、目の前の光景に見入っていた。


 どうしてこうなった?

 唐突に人生に割り込んできた非日常に、俺はそう思い頭を抱えた気分だった。

 場所は、祖父が他界し、祖父より前に両親と交通事故で死別していた俺に、遺産として残されていた屋敷の古びた蔵の中。

 そこで、非日常は唐突に、俺の人生に割り込んできた。

 どんな非日常かって?


 ルックスは良いが、オカルト好きな幼馴染の、珠希の趣味の黒魔術実験、儀式で、今、唐突に存在しなかった古びた木製の扉が空間に現れており、その扉を開くとその先にあるのは古びた蔵の中の景色ではなく、どこかはわからない森の中と思しき景色が広がっていたからだ。


 「本当に、本当に成功した……!」


 珠希が興奮気味に、頬を紅潮させながら言葉を紡ぐ。

 それを、どこか遠い映画のスクリーンの世界の声のように、俺は感じながら呆然と立ち尽くしていた。

 どうしてこうなった……? 

 だって、珠希のオカルト好き故の黒魔術実験なんていつものことじゃないか。

 そういつも行って何も起きないで終わるのが、デフォの黒魔術の儀式だ。

 だって、いつものと同じように、ネットの怪しさ満点の趣味人が運営してる個人サイトの中の、掲示板の情報が元の実験、儀式のはずだ。


 なのに、なんで、マジで黒魔術発動しちゃうんだよ!?

 

 そんな俺の気持ちなどお構いなしに、珠希の言葉は止まらない。


 「あの掲示板の書き込みは本当だったんだ! ついに…」


 ついに念願の異世界生活を手にいれたぞ!


 ルックスはいいけど、そんな感じで頭脳は残念な幼馴染の歓喜の声が世界と扉の先の世界、おそらく異世界にこだました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

週末一日、日曜日限定の異世界で、俺と彼女は今日も週末だけ冒険者(仮) 106san @takahiro_gallagher

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ