季節外れのキヅタの花

亜未田久志

夏が始まる音がした。恋が終わる音もした。


 アイビーグリーンという色には明確な「原作」がある。ウコギ科のつる性植物がそれにあたる。その色を指してアイビーグリーンと呼んだ。その中でも十月から十一月に花を咲かせるのがキヅタだ。その花は卵形で奇妙な形をしている。そんなキヅタを僕と彼女は育てていた。入学式を終えて春の終わり、植物委員になった僕と彼女は委員会で初めて顔をあわせた。

「よ、よろしく」

「ん」

 すごく気まずかった。だからただ適度に水をやるだけの植物委員は適度な距離感だった。彼女はとても美しく僕には高値の花でお近づきになれただけでやっかみが入るほどだった。

 しばらく経った夏休み前の小暑、僕のクラスに別のクラスであるはずの彼女がやってきて僕を呼んだ。

「急いで来て」

 急用らしかったので僕は急いで友達との歓談を切り上げそちらへ向かう。そして向かったのは屋上のビオトープ。キヅタの生えている場所だ。

「あっ」

「季節外れの花が咲いたの」

「きれ――」

 綺麗だねと言おうとした。

「醜いね」

 そう彼女が言った時、僕の恋は終わった。決定的に終わった。価値観の相違より恐ろしいものなどないと知っていたから。

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