「嘘」と「本当」両方自分

「ただいま」頼れる味方が2人もできた私は少しだけ心が軽くなった気がしていた。でも授業などで疲れていることは確かだった。私はまっすぐ自分の部屋に向かった。ベッドに顔をうずめる。この優しくし返してくれる感覚が好きだ。母の胸に飛び込んだいつかのことを思い出させてくれるから。

階段を誰かが登ってくる音がする。その正体はすぐに分かった。

「真陽、入るわよ。」母だった。この状況でも母と話せるなら胸が弾んだ。いつまで経ってもこの人だけは嫌いにはなれない。扉を開け遠慮なく母が問いかけてくる。

「あれから考えてくれた?」主語がないが「あれ」が何を指すのかくらい馬鹿で有名な私でもわかる。答えはすでに出していた。

「せっかくママが提案してくれたことだし、その人達に会ってみたいと思う。でも私はパパと3人で暮らしてたときみたいにママとずっと暮らしたい。」先生が私の話を全て受け止めてくれるからその流れで話してしまった。母に父の話を出すのはご法度だった。その事に気づいたときには私の頬は張り飛ばされていた。しびれるようにジリジリと痛む。 

それから母は光のこもっていない目で私を見下ろしながら答えた。

「そう。会う気になったのなら良かったわ。それとこの際はっきり言うとこの家にあなたの居場所なんて存在していないの。出ていくのがあなたの幸せのためだわ。あの人のことも、いい加減忘れて頂戴。」自分で察しながら距離を取るのと実際にきっぱりと言い切られるのとではダメージが比にならないほど変わってくる。私は暫くの間、枕を濡らした。母それだけ言い捨ててさっさと出ていってしまった。それから少しして、莉瑠と母の笑い声が聞こえてきた。

それとは対照的に私は悲しい涙を流していた。

 気がつけば朝になっていた。あのまま寝てしまっていたらしい。制服に歪なカタがついている。変な体制で寝ていたせいで体のあちこちから限界の信号が脳に送られてくる。それをできるだけ無視しながらそそくさと学校に向かった。

教室に入いり皆と目が合う。皆の目が明らかに大きく丸くなるのを捉えた。

「なにそのセーフク!シッワシワじゃん。昨日格闘でもしたの?」出かけたため息をぐっと飲み込み

「やばいよねー。知らないうちに戦ってたのかも」いつものふざけ調子で私は返した。「嘘」の笑みを浮かべながら。

「今日オールでさ、ほんとにしんどいんだよね」嘘は嘘で守らないとバレてしまう。

「ほんとに戦ってんじゃん。よく生きてたね。」今日も今日とて「嘘」の自分を貼り付ける。もう「本当」の自分がどこにいるのかわからない。心の中に2人の自分を飼っているみたいだ。そして心の大部分を「嘘」の支配されている。もうこのまま「嘘」の自分を「本当」にしてしまおうか。そのほうが傷つかないで楽な気がするな。そう考えることは今に始まったことじゃない。それでも毎回「嘘」を「本当」にしないのは私にはまだ先生と葵がいるからだ。支えてくれる味方がいる。2人に報いるため今日も私は心に「嘘」を飼いならす。



「今日は結構派手にいじられてたね。大丈夫?」下校中葵が心配してくれた。

「うん。大丈夫!それに昨日のほうが(色々とメンタル的に)やばかったし!」何がとは言わなかったが昨日の母からの言葉のほうが私の胸には刺さっていた。

「そっか。昨日なんかあったの?」葵のお返した。問いかけに対し

「自分の気分が落ち込んでただけでなにもないよ。」と返した。こんなに心配してくれる葵に嘘を付くのは嫌だったがこれ以上の心配をかけたくない。これが私の「本当」の気持ちだと思う。いつもの分かれ道。葵に手を振ると笑顔で振り返してくれた。葵が私に背中を向けながらポツリとつぶやいた。

「新しい家族とはうまくいくといいね。昨日はお母さんと・・・」

小さい声だったから、すべて聞き取れた訳では無いが一言目は確実に聞き取れた。

 情報処理が追いつかない。なぜ知っているのだろうか。家族の悩みは先生にしか言っていないはずだ。たまたま聞かれてしまったのか。

どれだけ頭を懸命に働きせても答えが出ることはなかった。

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