二人の悪魔

翌日の教室。その笑顔は「嘘」なのか「本当」なのか。

「おはよう。昨日の帰り際なにか叫んでたけど大丈夫だった?」朝の挨拶とともに投げつけられた言葉には誤魔化しようのない悪意が含まれているように感じた。

「なんで知っているの?」と早く聞きたい。でも今そのことを聞くと水樹たちにも聞こえてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。

「おはよう。大丈夫だよ。心配ありがとう。今日も一緒に帰らない?」周りから見ると「仲良しな2人の会話」だろうが私達にとっては反対に「冷戦」だ。静かに悪意と疑念をぶつけ合う。

「了解。先生に呼び出されても、待っているね」早く味方であることを確認したいのに葵から発せられる言葉はどれも嫌味のようなものを感じずにはいられなかった。

「えー!また呼び出されるの?てか昨日叫んでたって何なの!なんか面白いことでもあったの?」水樹の言葉への苛立ちを決して外には出さないように心の中の「嘘」の自分を召喚させた。

「もしもの話だよ。それになにもないよ。葵が意味深なこと言うから聞きたかったのに意地悪で帰っちゃったの。」すべて事実で練り上げられた言い訳を「嘘」の自分が発した。自分を偽るときの言葉に余計な「嘘」は作らない。


ホームルームが終わりすぐの葵のもとへ駆け寄る。

いつもの帰り道。だがいつもとは違う空気が私達を包み込む。

「さっそく本題だけど、家族のことなんで知ってるの。」先に口を割ったのは私の方だ。

「言う義理がないわ。それに言いたくない。」葵のはぐらかさずに、あくまで「言いたくない」という意思なのが腹立たしい。。話すことを強制することが難しくなる。仕方がない。私はこれまでの学校生活で1つのある可能性をうちに秘めていた。見ないふりをしていたと言うのが正しいのかもしれない。

「もしかしてだけど、先生と葵は恋人だったりするの?」

葵だけ名前呼びだったことを私はずっと見ないふりをしてきた。気のせいだと。私が「葵」って呼ぶから移ったのだと自分を思いこませていた。私の問いかけに葵は目を丸くした。そしてすぐにバツが悪そうな顔をみせた。ビンゴ。あたりだな。そう思っていると彼女はいきなり大きな笑い声を上げた。刑事ドラマ犯人が当てられたときの「それ」だ。


「惜しいけど違うよ。」そう答えたのは葵ではなかった。猫柳先生だ。まさか聞かれていたなんて。先生が葵に教えたんですか。2つの気持ちがせめぎ合う。それでも今一番聞きたいのは

「葵とはどういう関係なんですか。」これだった。

「恋人よりももっと近い。家族だよ。俺の娘。義理だけどね」なにを言っているのかわからない。先生と葵が家族・・・?そんなはずがない。そうでいいわけがない。なぜ学校側はなにも言わないのだ。心で叫んでいたはずなのに見透かされていた。

「学校はそもそも私達のことを知らないんだよ」次に答えたのは葵だった。意味がわからない。父親が担任って。それに娘の友達の相談をバラすのもありえない。

唯一の味方だと思っていた2人。裏切られたのか。それとも2人で私を救う努力をしてくれるのか。もう殆ど無い期待にかけるしかなかった。

「ごめんね。つい本気で悩んでる片栗が面白くて。」もうやめてくれ。処理がおいついていない。絶句してしまっている私を2人はあざ笑う。もうなにが起きていてどこまでが本当かわからない。

「少し場所を変えようか。全部教えたげる。俺達のこと気になるでしょ?」そう言うと先生は近くに止めてある車に乗り込んだ。葵も助手席の扉を開ける。二人にとっては当たり前の光景であろう一連のことを私は呆然と眺めていた。ぼうっとしている私に葵が車に乗るよう声後部座席のドアを開け車に乗り込み移動する。「家の学校の生徒に会ったら面倒だし、隣町まで行こっか。」車での会話はこれだけだった。隣町と言ってもたったの一駅しか変わらない。ただ、わざわざ誰も立ち寄ろうとしない暗い空気の漂う田舎だった。そんな街のどこに連れて行かれるのだろう。

連れてこられたところは2人のお気に入りだというカフェだった。

暗い夜を照らす街灯のようにその店だけは明るい雰囲気を醸し出していた。

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