選択肢

純粋に母と話せることが嬉しかった。だからか、つい、自衛するのを忘れていた。

「あなたに紹介したい人がいるの。」母がそう口にした。さっきまでの喜びはどこかへ消え去っていった。これは捨てられる確定演出ではないか。

「それはどういう紹介なの」頼むから新しい男か妹の友人の母であってくれ。なんだってするからこの家でママと一緒に暮らさせてほしい。愛されてなくても唯一の家族なんだ。血がつながっていて一度は幸せに暮らしてたんだ。神様。頼むから今だけ味方してください。藁にも縋るような思いでそう母に問いかけた。

「私の友達でね。子供がほしいけど不妊症で今からじゃ難しいらしいの。そこであなたを養子に出すのはどうって話になっているんだけど。あなたはどう?」

「絶望かも」が「絶望」に変わった。

1番言われたくないことをなんの抵抗もなく言われてしまった。私の何がいけなかったの。そもそもなんで私とパパが居るのに不倫なんかしたの。もう遅すぎてどうにもならない負の感情が溢れ出す。でも母は待ってくれない。

「あなたも最近居心地悪そうじゃない。だからどう?」どうってなんなんだ。もうほとんど結論が出ているじゃないか。居心地悪そうって私があなた達を遠ざけたみたいな言い方だけど実際に私を傷つけたのも遠ざけたのもママではないか。こんなときに思っていること全部言えたらいいのにな。なんで私は誰のことも信じれないんだろう。立場や不確定な未来のことばかり気にして1番大事な今には目を向けれないのはなぜだろう。

「少し待ってほしいな」明らかに母の顔が険しくなったのがわかった。

「あ、やっぱり_」そう言おうとしたが母のほうが早かった。

「そうよね。じっくり考えてちょうだい」たぶんこれで私が家に残るって言ったら更に居場所がなくなるんだろな。もっと叩かれたり罵倒されたりするのかな。それで傷つくくらいなら環境を変えるべきなのか。それとも私は試されているんだろうか。親子の絆ってやつがどれだけ私とママの間にあるのかをテストされているのだろうか。考えつくすべてのパターンのなかで結論、私を追い出したい、に該当するものが多すぎる。やはり出ていくべきなのだろうか。明日先生に相談してみようかな。だが、話して先生が家に電話なんかよこしてきた日にはたまったもんじゃない。母を裏切ることになる。母の悪口なんか言っていいわけがない。一人で考えようかな。

どうしていいのかわからないまま朝を迎え、もうあっという間に昼休みだ。

私は普段は葵と中庭でご飯を食べる。ここ最近は葵が部活で昼休みも忙しそうにしていたから葵とは久しぶりの昼ご飯だ。他愛もないことを2人で話す時間が楽しくてあっという間に昼休みが終わってしまった。昨日の話どうしようかな。なんて授業中に考えていたせいで当てられているのに気づかなかった。よりにもよって私の苦手な数学だ。方程式らしき数式が書かれているがどうすればいいのかわからない。

「すみません。わかりません。」私がそう先生に言うと解き方を教えてくれ何とか答えることができた。やはり先生は優しい。数学の担当は担任の猫柳先生だ。今さっきの問題がわからなかったことで案の定水樹たちに

「ほんと馬鹿じゃん。そんなだからテストの点数低いんだよ」とバカにされたときも

「人には得意なことと苦手なことがあって当然だ。それを押し付けるのは人として良くないぞ。」とかばってくれた。やっぱりこの人になら相談してもいいのかも。そう思いながら5時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。今日は5時間授業の日なのでこれで終わりだ。ホームルームが終わり各々解散していく。先生に相談してみようかなと思い先生に声をかけてみた。

「先生、少し相談してもいいですか。」今思えば自分から先生に相談することなんてはじめてのことだった。

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