友人選別
「まひるったら、また先生に怒られるの。まあ、いつもふざけてるし仕方ないか。」
「まじそれな。インガオウホウってやつだな!」と言われたあとまた私の周りが笑顔に包まれた。私についての話を他人主体で語られることにも慣れてしまった。みんな、私のなにを知って語っているのだろう。
「僕(私)はあなたを傷つけるつもりは全くありません」
というような顔で心にナイフを突き刺してくる彼女たちが怖い。なぜこの人達は人の気持ちを考えずにこんなに言ってくるのだろう。
「せんせーさよならー」「はーいさようなら。」私を除く最後の生徒が教室をあとにした。先生が何も言わずに教室のドアをしめこちらに振り向く。
先生、あの__
ほとんど同じタイミング私の声は先生の声にかき消された。
「思っていること、全部吐き出しちゃいなよ。さっきも嫌だったんでしょ。今なら時間あるし聞いてあげられるよ。」なぜだろう。先生に温かい言葉をかけてもらうことは初めてじゃない。だが私の中で新たな感情が芽生えた。
先生が好きだ。
「私、すぐに他人と比べちゃうんです。環境や持っている才能。その度に悲しくなって自分がいない方がいいんじゃないかって思うんです。」思っていることをそのままダイレクトに口に出す。いつも頭の中で何回かシュミレーションしてから口に出す私にとってこの感覚は不思議なものだった。
「それで自分よりも明るくて友達も多い水樹に嫉妬してたんです。水樹は運動も得意で勉強もできてすごいなって。それだけじゃなくて、周りの友達や家族の人からも愛されているのも羨ましいんです。」
言い終えたあと妙な達成感に包まれた。いままでひた隠しにしてきたことをすべてさらけ出したからだろう。私の訴えを先生は親身に聞いてくれた。
「そうか。辛かったな。俺は今初めて片栗の本音を知った。今話してくれたからわかったんだ。それまでは想像することはできても本当に理解することはできない。想像なんてものは的はずれなことのほうが多いもんだ。だから氣仙達と俺はさっきまであんまり同じくくりにいたってわけだ。」先生が何を言っているのかわからない。先生と水樹たちが同じくくりにいたって?そんなわけないに決まっている。先生は優しくて私の事を傷つけたりなんかしない。なぜそんなに成り下がるんだろう。
「俺さ、思うんだよね。教師になってからいろんな生徒見てきたけど誰かを裏切ったり傷つけたりするのって本当に良くないことだと思うんだよね。人を傷つけるって、その人を敵に回すってことだろ?もったいないじゃないか。でも、自分のことを傷つけてくる人はかならずいる。誰からも好かれることは不可能なんだよ。だからこそ選んでいかなくちゃならない。これから先大人になっても片栗の友達で居続ける人はきっと、片栗を容易に傷つけない人だと思うよ。」
聞きながら自分の目から信じられない量の涙がこぼれ落ちていく。泣きじゃくりながら先生の言葉を聞き取るので精一杯だ。
「だから無理して氣仙達と馴れ合わなくていい。孤独は悪いことじゃないよ。それに仲のいい友達、片栗にはいるじゃないか。それに俺もいる。一人じゃないよ。」先生から送られてくる言葉にはぬくもりと愛がこもっているような気がした。
「ありがとうございました。すごく心強いです。」
「なら良かった。またいつでも相談してね。もうこんな時間だ。話しすぎてしまったね。気をつけて帰ってね。」2人の時間を終わりに導く先生の声とともに午後6時を知らせる校内アナウンスがかかった。
「はい。今日はありがとうございました。先生さようなら。」「はいさようなら。」
教室を出てスマホを手に取る。まずい。母からの着信履歴の数に絶望した。今日は用事があるから早く帰って来るように言われていたのだ。全速力で正面玄関をあとにした。葵もう帰っちゃったかな。またせ過ぎだよな。今日は友人の葵といっしょに下校する約束をしていたのだ。
校門の前で1人の女子生徒が音楽を聞いていた。葵だ。
このときにふと思った。私がおとなになっても関わり続ける友人の中に葵は入っているんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます