【クロスステップ・アンド・パス】
高校三年生にもなると、俺たちの高校の夏休みはほぼ登校日で予定は埋まる。今日も学校で昼まで勉強していて、その帰り道に俺はふと一緒に帰っている友達に声をかけた。
「なぁ、あそこのコートでバスケしねぇ?」
「よっしゃあ、じゃあ俺とお前の1on1な。俺が勝ったら何してくれる?」
ソイツも存外ノリ気なようで、いそいそとベンチにスクールバックを下ろす。俺もその隣にバックを置き、中からバスケットボールを取り出した。
そのボールをソイツに渡すと、ソイツはゆらゆらとドリブルしながら俺に賭けを持ちかける。
「んー…じゃあコンビニでアイス奢ってやるよ。でもその代わり俺が買ったらお前が奢れよ。」
俺の出した条件に満足したように彼は頷く。
「よし、じゃあいくぜ!」
俺の言葉に2人同時に動き出した。
「アッチー!まじで暑い!俺らこんな暑い中外でバスケとか、熱で頭やられてんじゃねぇの!?」
汗だくになって言う友達に
「でも良かったよな!バスケなんて部活引退して以来だったからめっちゃ楽しかったわ!」
なんて言って笑った。ソイツもそうだな、なんて笑ってた。
「てかぜんっぜん勝負決まんねぇのウケる。俺が点取ったらすぐにお前もシュート決めるんだから。」
はぁーっと息を深く吐き出しそう言うソイツの顔は、疲れているけれど楽しそうだった。
「まぁ1on1だからなぁ。そういうもんだよな。
次は何人か誘う?それこそあと4人誘って3on3とか。」
「いやぜってぇ来ねぇって。こんな暑い中お前の誘いに乗ってバスケすんの俺くらいしかいないよ絶対。」
俺の言葉にハハ、と呆れたように笑いながら否定の言葉を口にするソイツに、それもそうだな、なんてつい納得してしまう。
「どうするー?勝敗決まってないし、決まるまでやるかぁ?」
バスケットボールを人差し指でクルクルと回し提案してくるソイツに
「いやお前だって結構ノリノリじゃねぇか!なに俺に付き合ってあげてます風に言ってんだよ!」
なんて笑って軽くどついた。
ピロリロリーン。コンビニの入店音が鳴り響くのと同時に、冷たい空気が俺たちを出迎える。
「「涼しい〜。」」
俺たちの声が合わせたように口から出た。
「あんな暑い中でバスケしてた俺らまじで馬鹿だろ。」
ソイツの言葉に、だよなぁと同意する。
「俺もうシャツとか汗だくだわ。」
今度は俺の言葉に俺もだよと同意された。
「そんで結局勝敗着かなかったのまじでウケる。」
シャク、とアイスキャンディーを齧りながら歩く友達。
「勝敗決まる前に俺たちの暑さが限界迎えたもんな。」
ソフトクリーム片手に俺もソイツの隣を歩く。
時刻は17時半過ぎでもうすっかり夕方で、なのに外はまだ明るくて。
「でも久しぶりにお前とバスケ出来て良かった。」
ソイツが俺の顔を見てニッコリ笑うから
「俺もだよ。」
俺もつられて笑ってしまった。
「次はさー、市民体育館とか借りてやろうぜ。そんでアイツら呼んでさ、3年バスケ部の元部員全員。そしたら今度は勝敗着くかもな。」
「だなぁ。でもそれが出来るの多分受験後だな。」
「うわぁ〜、受験かぁ…受験…。頑張らねぇとなぁ。」
「でも終わったら楽しみがあるからさ。その楽しみの為に頑張ろうぜ。」
「そうだな。」
ぽつぽつと喋りながら歩く帰り道。アイスはすっかり食べ終えていて、コイツと一緒に帰れるのはあとどれくらいなんだろう、なんてぼんやりと考えていた。
「でも俺らは多分大人になってもバスケを続けるんだろうな。」
不意に隣から聞こえた言葉に確かに!と嬉しくなりながら声を上げる。
「なぁなぁ、大人になったら俺らで社会人チーム作ろうぜ。
いや、もう既にあるんならそこ入ってもいいな。」
一緒に帰る回数が減ったとしても、多分俺はこれからもコイツとバスケをする回数は増え続けていくのだろう。当たり前のように俺とバスケをする未来を描いてくれていたソイツに、"コイツと友達になれて良かった"なんて事を思う。恥ずかしいから絶対に本人には言わないけれど。
だんだんと日が沈み始め、俺たちの影が少しずつ伸び始めていた。
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