Day12 チョコミント

 大きな溜息を吐いた弔路谷怜ちょうじたにれいが、愁いの表情で言う。


「チョコミント味って苦手。美味しいんだけど……」


 ちょっと意外だと思った。

 特別大好物そうと言うわけではないが、好きでも嫌いでもなさそうだと思っていたので。明け透けに言うなら何味でも食べそう。

 弔路谷は某ファンタジー作品に登場する百味のビーンズを鷲掴みにして、一気に食べるタイプである。




 * * *




 聞けば、口避け女である根室早紀子ねむろさきこさんもチョコミントが嫌いらしい。

 彼女はメッセージアプリにて、至極真剣な文章でチョコミントの邪道さを語った。その文字数、ざっと見て一万字。

 そして最後は、こんな一文で締めくくった。


「ミントは要らない、チョコレートだけで充分美味しいです」




 * * *




 弔路谷が愛用する呪われた番傘――レーラちゃんに至っては「チョコミント」と聞いただけで、骨がバラバラに分解されてしまうらしい。


 マジか、ちょっと見てみたいな。


 と思って「チョコ――」と言い掛けたら、般若を彷彿とさせる鋭い視線と、殺気と、凶悪な口を見せられた。いつも血走っている目から本物の血涙を流しながら。


「ワタシを殺す気……?」


 どちらかというと、僕の方が呪い殺されそう。

 僕は首を横に振りまくった。文字通り、必死に。




 * * *




 何故そんなに厭うのだろう。こんなに美味しいのに。


 お気に入りのチョコミントアイスを食べながら、僕は弔路谷に訊ねる。

 彼女は眉間に深い皺を刻みながら腕組みをし、「う〜〜〜〜ん」と盛大に唸った。

 いや、答え難いんだったら答えなくて良いし。特に理由がないなら、無理矢理答えを捻り出さなくて良いよ。


「いやいや、答えが無いわけじゃないのよ。ただなぁ……すごく個人的というか、感覚的というか……」

「やっぱ王道に『歯磨き粉の味がするから』?」

「ううん。そんな単純な理由じゃなくて。あのスーッとする感じがねぇ……似てるんだよねぇ。中身が抜ける感覚に」


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