Day5 琥珀糖
今月の頭から大学周辺で「べらぼうに美味な琥珀糖を売る路上販売」が出現している。
僕は特段、甘い菓子が好きではない。路上販売にも興味がない。
だから「べらぼうに美味な琥珀糖を売る路上販売」の話を知っても、全く興味がなかった。
が、その販売員(?)が「超絶怪しい女」と聞かされたら話は別だ。
「超絶怪しい女」と聞いて、僕は
星の数ほどいる女性の中で何故、真っ先に彼女を思い浮かべるのか。明確な理由は定かではない。強いて言うなら、身近にいる生きた女性の中で一番やべえ奴だから。
更に、弔路谷は独り暮らしデビューを果たしてからこちら、金欠をぼやくようになった。
怪異を解体してねちょねちょしてクッキングをする女だ。適当に捕獲した魑魅魍魎を溶かして何やかんやして作った「べらぼうに美味な琥珀糖」を売り、生活費を稼いでいても不思議ではない。
僕は彼女を問い質すことにする。
一体どんな材料で「べらぼうに美味な琥珀糖」を生成しているのか?
販売目的は何だ?
適正な価格設定なのか?
無辜の民が心身の健康被害に遭い、保証云々の問題が発生して、その火の粉が僕に降り掛かるのは絶対に避けたい。
* * *
「非道い濡れ衣だわ」
長ったらしい名前のフラペチーノを啜りながら、タブレット端末でネット記事(ちら、と覗き見をしたら去年十一月から日本列島を震撼させている連続誘拐殺人事件の記事だった)を読んでいる弔路谷に訊ねると、吃驚するほど低い声でそう返された。
端整なお顔は如何にも「不愉快です」と言う風に顰められている。
肩すかしを食らった形になった僕は、間抜け面を晒して間抜けな声を漏らす。
「え、お前じゃない?」
「勿論よ。どうして、あたしが魑魅魍魎で琥珀糖を作れると思ったの?」
「お前が過去にやらかした所行の数々が理由だよ」
そうめんとか。ステーキとか。
「あたし料理は出来るけど、お菓子作りは苦手なんだよね」
怪異で作った料理は最早、料理ではないのでは?
万歩譲って下手物料理。
「今日のハジメくん、色んな意味で失礼だね? どうしたの? ご機嫌なの?」
「兎に角、本当にお前じゃないんだな?」
「何度訊かれても答は変わりません。本当です。あたしではありません。あぁ〜、嫌だ嫌だ。こうして冤罪被害者が増えていくんだわ。いやんなっちゃう」
「じゃあ、販売員の正体は誰なんだ?」
「あ、それ?」
と、弔路谷は軽い調子で言い、タブレット端末の画面を僕の方へ向ける。
「そいつの正体はコイツ」
画面は、覗き見た状態のまま。
連続誘拐殺人事件のネット記事が表示されている。
「……え?」
「この事件の犯人が、販売員の正体。コイツ、誘拐した人間の魂を吸い取って、琥珀糖にして売り捌いてんのよ。ぼろ儲けしちゃって羨ましいなぁ。
ま、やべえ奴らに目を付けられて暗殺命令を下されてるから、そのうち消えるでしょうけどね。どちらも」
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