Day4 アクアリウム
そびえ立つ高層ビルとマンション。
雲ひとつない青空。
型抜きクッキーのような家々。
夏の日差しに焼かれる線路。
ぬらぬらと表面を揺らすアスファルト。
代わり映えのない街並みを眺めながら、「この先には何があるのだろう」と考える。
終点がある線路とは異なり、街には終わりがない。
正確に言えば存在するけれど、例えば「街」を「世界」に言い換えればそうだ。街から村へ移動しても、県境を越えても終わらない。海の向こうにも世界は続いている。
世界という名の「人間の営み」が。
世界の果てへ行ってみようと思い立つ。
知らなければ知れば良いのだ。
ほぼ毎日利用している路線の終着に興味が湧いて、好奇心のまま乗り続けるように歩き続ける。
特別何かを考えることもなく直感的に、もしくは本能のままに歩を進める。
四輪車どころか二輪車さえ存在しない車道の中心を進むのは案外、罪悪感があることを知る。けれど、無人のコンビニから飲料水とオニギリを無銭で頂戴することに罪悪感はない。
生命に直結する行為だからだろうか?
と、一秒ほど考えて、歩く行為に集中する。
毎日やかましいほどに連絡を寄越す
そこで、僕は初めて気付く。
『圏外』
一心不乱に歩き続けると、突然、見えない何かにぶつかった。
恐る恐る掌を這わせて確認する。
それは透明な壁だった。
一瞬、膜かと思ったけれど、それにしては固すぎた。プラスチック製か硝子製かは判らない。けれど、冷たい透明な壁が行く手を阻んでいる。
目を凝らす。壁の向こうに、違う世界が広がっているように見える。
なんだか、ちょっと薄暗い。ぼんやりとした闇に、ぼんやりとした何かが沈んでいる。
ジーッと注視し続けていたら、視界の端からベージュ色の壁が差し込まれる。
「うわッ」
悲鳴を上げて、思わず仰け反る。
ベージュ色の壁には黒い糸と、まんまるい黒がついている。
それは顔だった。数歩後退しなければ、およそ認識できないだろう巨大な顔。黒い糸は髪で、まんまるは目玉だ。僕は、その顔をよく知っている。
闇を凝縮したような瞳に、驚愕した僕の顔が写っている。巨人は形の良い唇を歪め、パクパクと動く。
声は聞こえない。が、何を言ったかは判る。
「ハジメくん」
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