Day3 飛ぶ

 夜中、ふいにアイスが食べたくなったので、近くのコンビニへ出掛けた。


 その帰り道、弔路谷怜ちょうじたにれいが飛んでいるのを目撃した。


 危ないお薬でハイになっているとか、比喩的な表現ではない。文字通りの「飛ぶ」だ。バニラアイスを吸い上げながら見上げた先、微かに星が瞬く夜空を泳ぐように飛んでいる。翼らしき物は確認できない。


 あぁ、遂に人間を辞めたのか。早かったな。

 いや、遅いぐらいか?


 冷たいバニラアイスを接種したとはいえ、暑さにヤラレタ思考は蕩けたままだ。ぼんやりする頭で考えながら、夜空へスマホをかざす。

 写真と動画、どちらにしようか迷って、後者にした。


 撮影後、SNSアプリを起動。

 弔路谷とのトークルームを開いて動画を投げる。


〈夜の飛行は愉しいか?〉


 明け方まで読まれはしないだろう。

 と予想していたが、意外なことに、すぐに既読がつく。

 そして、一秒単位で返信が送られる。


〈何この動画〉

〈まだ飛べないよ〉

〈そこまで怪異食べてない〉

〈妖怪も〉

〈数が足りないの〉

〈ねえマジでこの動画なに?〉

〈ハジメくん、浮気?〉

〈浮気してるの?〉

〈てか、この動画の女、あたしに似てない?〉


 何を言っているんだ、こいつは。


 突っ込みどころが多過ぎて、どこから突っ込んで良いか判らない。僕の指が全く動かないのは暑さだけの所為ではないはずだ。

 ふと、誰かに見られている感覚を覚える。

 止した方が良いと理解していながら僕はもう一度、夜空を見上げる。


 上空の弔路谷が、僕を見下ろしている。

 氷の如く冷たい、冴えた美しいかんばせで。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る