第25話 捜索開始

 翌朝、朝早くから学校にやってきた僕は、来て早々教室を飛び出した。


 目的は当然、春日野さんを探しだ。


 花に水をやるのもそこそこに、急いで校内を駆け回る。


 まずは昇降口。


 記憶をたぐって、彼女のクラスの下駄箱の一つ一つに貼られたネームシールを確認する。


 程なく、春日野さんの下駄箱を見つけると既に外履きが入っていた。


 もう校舎内にはいるようだ。


 ならと、今度は彼女のクラスまで急いでいく。


 開いた扉から顔を出して、扉傍の女生徒達に声をかける。


「すみません」


「え? あ、姫?」


 いきなりの事に驚く女生徒。僕は畳みかけるように尋ねる。


「あの、朝からすみません。春日野さんを探してて……」


「あ、桜? 桜なら……って、あれ? さっきまで席にいたのに」


 彼女の視線の先、窓際の席には誰も座っておらず、カーテンだけがたなびいていた。


「何処行ったんだろ。さっきまでいたのに……」


 キツネにでもつままれたような反応で唖然とする女生徒。


 その彼女に、身を乗り出して聞く。


「さっきって、どれくらい前かわかりますか?」


「え? う~~ん。多分、五分前くらいかな。はっきりとはしないけど、あたしらがここで話し始めたくらいにはいたから~……」


 どれくらい前かはイマイチ分からない様子で彼女は頭をひねる。


「わかりました。ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げ、僕は教室を離れると再び廊下を早足に進んだ。


 教室からいなくなった。


 だとしたら、彼女は何処に行ったのか?


 考えながら歩いていると、トイレから一人の女生徒が出てきたところだった。


 あ~、トイレって可能性もあるか。


 そう思い、トイレから出てきたばかりの小柄で可愛い女子生徒に声をかける。


「あの!」


「え!? お、お姫さま!!?」


 急に声をかけられて、驚きを通り過ごして狼狽したような反応の女生徒。


 僕は軽く頭を下げ、尋ねる。


「すみません、急にすみません。聞きたい事がありまして」


「聞きたい事? 私に」


「はい。今、トイレから出て来られたのを見たので。で、ですね…トイレで春日野さんを見かけませんでしたか?」


 はっきり言い切ると、女生徒は目を丸くする。


「春日野……ああ、桜ね? ううん。見てないよ。今、トイレにいたのは私だけ。入ってからも誰も来てない」


 頭を振る女生徒。どうやら、ここにも来ていないようだ。


「わかりました。ありがとうございます」


 再び頭を下げそのまま彼女を残してまた早足に立ち去る。


 トイレにもいなかったか…。次は、


 頭をフル回転させて、廊下を行く。


 すると、今度は職員室が近づいてきた。


 あ、職員室に用があった可能性は?


 そう思うと、僕は職員室の扉を叩いた。


「失礼します!」


「おぉ! なんだ、竹越じゃないか」


 顔を出したのは和美先生だった。


「どうした、朝から職員室に何の用だ?」


「あ、その……。先生、ここに春日野さんは来ませんでしたか?」


「ん? 春日野?」


 怪訝そうな表情をする先生。眉を寄せ、疑問に首を傾げる。


「いや、私は見てないが……。あ、山井先生。春日野見ましたか?

 春日野桜?」


 和美先生は僕の問いに答えると、通りがかった小柄な英語教師、山井先生に尋ねる。


「春日野さん? いいえ。私は見てません。多分、私が来てから生徒は誰も来てないと思いますよ。春日野さん、私のクラスだし他の先生のところにいても目立ちますから」


 先生方はどうやら春日野さんを見ていないらしい。


「わかりました。先生、ありがとうございます」


 僕はそれだけ言うと、職員室を立ち去る。


「あ、おい。竹越。春日野がどうしたんだ? おい」


 背後で先生の声が聞こえたがそれにかまう余裕は無かった。


 職員室にもいなかった。


 じゃあ、一体どこに……。


 この階以外の何処かに行ったって事か?


 だったら、何処に?


「いや~、朝の屋上最高だわ。風が超気持ちいいの」


「それな!」


 考えていると、今度は男子生徒が二人談笑しながら階段を下りて行った。


 屋上か。


 自分たちはよく昼を取りに行く場所だが、果たして春日野さんは近づくだろうか?


 だったら、行ってみるしかない。


 僕は階段を一気に駆け上がり、屋上まで上がった。


 屋上に続く扉を開いて外に出れば、気持ちのいい風が吹き抜けていった。


 目の前には落下防止用のフェンスと雲一つない青空。


 誰かいないかな?


 そう思い、周囲を見渡す。


 見える範囲には、誰もいなかった。


 一応梯子を上った先にある給水塔の方も見てみる。


 が、そこにも人っ子一人いない。


 どうやら、ここにもいないようだ。


「春日野さん。何処にいるんだ?」


 僕はフェンスの方によって、屋上から見える校舎を見下ろす。


 そこはいつも通り、グラウンドで練習する運動部の姿があった。


 当然、そこにも背の高く目立つ美人の姿は無かった。


 こんなところから探しても、見つからないか……。


 そう思った時、ふと目の端に映るものがあった。


 体育館だ。


 先週まで昼をずっと共にしていた体育館。そこで練習しているのは……。


「バスケ部!」


 僕は慌てて屋上から階段を下り、昇降口で靴を履き替えて、体育館へと走った。


 体育館の外につくと、そのまま裏手側に回る。


 中では練習中だろうし声をかけるわけにはいかない。


 練習の邪魔をすることになるし、今回の件は僕の個人的な話なので女子バスケ部の皆さんを巻き込むわけにはいかない。


 裏手に回ると、中を覗ける窓がある。


 僕はそこから中を覗き込んだ。


 そこでは、男女共にバスケ部が激しく練習し、ステージ上では卓球部が本番さながらの練習をしている様子が伺えた。


 僕は目当ての女バスの練習に目をやる。


 そこでは相も変わらず激しい練習が続いている。その中には美也子さんの姿もあり、相変わらずきびきびとした檄が飛ぶ気合の入った練習ぶりが見て取れる。


 しかし、その中に春日野さんの姿は無かった。


「ここでも無いか……なら、」


 僕が次なる行き先を考えていると無情にも予鈴がなった。


「あ……見つけられすらしなかった」


 落胆するがうかうかもしていられない。慌てて教室まで戻った。

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