第24話 推理2

「本性を隠してたるって…? どういう事?」


「そうだよ! 本性隠してたって、どういう事だよ! 春日野が王子様ってのはまがい物って事か?」


「まぁ、待て。最初から整理して話すとするから」


 僕らの様子を見て、康介は訥々と口を開く。


「春日野は本性を隠してた。これはさっきの龍之介の話を聞いて思った事だ」


「ああ、俺も途中でピンと来たよ」


 康介の言葉に、忠司も得意げに同意する。


 だが、僕も豊も意味が分からずちんぷんかんぷんだ。


「さっきの僕の話から、春日野さんが本性を隠してたって事が分かったって。どこからそんな話が出てきたの?」


「良いか。まず遊園地最初の出来事。ジェットコースターだ。ジェットコースターってどんな乗り物だと思う?」


「え? ジェットコースターは~。安全性が保障されてる状態で、普段は味わえないスリルを味わって、思い切り絶叫するっていう、絶叫マシーンだよね?」


「そうだ。ジェットコースターはスリルを味わって絶叫するアトラクション。そういう時って普段はクールでも余程肝が座ってなきゃ、恐怖で叫んじゃうモノだ」


「うん、そうだね」


 首肯する僕に今度は忠司が口を開く。


「なら、そんな状況では、人間は素の顔が出て来かねないんじゃないか? 恐怖というのは原始的な感情だ。康介が言っていた通り、余程肝が座っていなきゃ素なんて隠しきれるものじゃない」


 そこで一度言葉を切り問いかけてくる。


「そこで聞きたいんだがジェットコースターに乗る前に変な感じじゃなかったか? 何だか乗るのを躊躇ってそうな雰囲気とか」


「躊躇ってそうな雰囲気…あ~、妙にそわそわしてたというか。怖いわけじゃないって言ってたけど」


「なら、やっぱりその可能性は高そうだ。ジェットコースターに乗ったら自分の本性がバレる可能性があるからと考えた方が辻褄があうだろ」


 忠司の言葉は、確かに腑に落ちるモノだった。


 あの時の様子がおかしかったのはジェットコースターが苦手なだけじゃなく素の自分がバレる事を恐れていたとしたら。


「そう考えると、お化け屋敷も同じ原理になってくる。お化け屋敷も日常にないスリルを味わって絶叫する系のアトラクションだからな。どうやら本当の春日野は怖がりでスリルに弱いみたいだな」


「ああ。そうか。確かに、辻褄があう」


 僕は力なく笑うと、康介が更に問うてきた。


「それでだ。悲鳴をあげる春日野に、龍之介は手を重ねて握ったんだよな。少しでも怖くないようにって」


「ああ、うん。そうだよ?」


「それで、お化け屋敷では、苦手だったら僕に捕まってて、と?」


「う、うん。確かにそう言ったよ」


「なるほど~。まぁ、それなら王子や騎士とか言われてもおかしくは無いか」


 うんうんと頷きながら、康介が何やら納得したように言った。


「? なんでそれで王子や騎士?」


「バカ。お前、今の話聞いてて、気づかねぇのかよ」


 僕が首を傾げているのに、豊がツッコミを入れてくる。


「良いか。ビビって素が出ちゃってる状態で、お前は相手が怖がってるのに気を遣って手を重ねてみたり俺に捕まってろムーヴしてみたり。色々出来る男ムーヴしちゃってたんだよ!」


「春日野の本性が絶叫系アトラクションに女の子らしい悲鳴上げちゃうような気弱な女の子ならそんな男はさぞカッコよく見えだろうな。さながら勇敢な王子や騎士のように」


 忠司が豊の言葉を受けて続きを述べる。


 言われて心臓がどくっと高鳴った。


「そういえば自分だって悲鳴くらいあげるだろうに君は優しいと言われた気がする」


 僕が思い出しながら伝えると、康介は得意げに笑う。


「なら、俺達の仮説はあっていそうだ。恐らく、本当の自分がお前にバレてしまった事で、嘘をついていた事を後ろめたく思ったのかもしれない。お前は女の子っぽく言われるけど男らしく、春日野は男っぽく振舞ってるけど本当は臆病な女の子。さしずめ美少女くんとイケメンちゃんって事だ」


「前から思ってたけど、その美少女くんってどういう意味なの?」


 康介の言葉に、首を傾げる僕。


「ああ。やっぱ分かってなかったか。『美少女』って言葉は女の子に使う言葉だろ? 対して『くん』ってのは大体男の名前を呼ぶ時に使う言葉だ。美少女くんってのは美少女の見た目だが中身は男。だから美少女くん。イケメンちゃんってのも同じで外面はカッコいいイケメンだが実は中身は女の子って意味だな」


「そういう意味だったのか。てっきりバカにされてると思ってた」


 康介の生み出した単語の意味に僕は唸りつつも納得する。


「さて話を戻すとイケメンじゃなくてイケメンちゃんだった春日野は自分の本性がバレて後ろめたくなってお前と別れたのかもな」


「若しくは……何か事情があるのかもしれない」


「事情って……。一体、どんな?」


「それは分からねぇ。お前の話を聞いて思いついたのは今の推論だけだ。そこからは、本人に聞く以外には無いな」


「ともかく、この件は結局、龍之介が頑張って解明する以外には無い」


 忠司に言われて僕は顔を伏せる。


「どうした~?」


「あ、その。実際は彼女には問題は無くて、僕が悪かったんじゃないかと思って」


「え?」


「だって。僕が無理やりジェットコースターに誘ったりカッコつけて手を重ねてみたり、僕に捕まってろとか言ってみたり」


 あの遊園地での事は、やっぱり間違いだったのではないかと思っている。


「バッカ野郎!」


 と、暗澹とした気持ちで項垂れている僕を、豊が一喝した。


「何言ってんだ、お前! お前、自分の事何も分かってね~な?」


「え?」


「さっきも康介が言っただろうが! お前は! 見てくれは可愛いけど、中身は完全にカッコいいの男だ!」


「僕が……カッコいい?」


「そうだよ! お前、いっつも俺らがバードウォッチングで女子に捕まった時にも颯爽と助けてに来て女子に真向から頭下げてくれたり!」


「ああ、それはそうだな。龍之介は俺達が捕まったと聞いたら即座に飛んできて助けてくれる。それになんだかんだ男らしい」


「そうだな。そんな事出来る奴はこの世に二人といねぇ~よ。飛んできた野球ボールから顔面ブロックで女の子守れる男はさ」


 三人揃って口々に僕を誉めそやす。


「あれ? みんなからの僕の認識ってそうだったの?」


「何言ってんだ? お前を女扱いなんて真面目にした事一度もねぇよ!」


「そうそう。俺達はお前を男として扱っている」


「ああ。俺達はお前を男としか扱った覚えはない!」


「ともかく。お前はカッコいい男なんだよ。間違った認識は正せ、馬鹿」


「そうだ。お前は、その外見で詐欺してるも同然なんだぞ! 見た目によらずカッコいい男前野郎!」


「外見が、詐欺。でも、彼女の前じゃあんまりいいところは見せられて無いんだよね。付き合い始めて一日目も手を引かれたりとか」


 僕がまた顔を伏せた。が、すぐに康介からツッコミが入る。


「それだが。お前さ、先手取られると流される癖があるだろ?」


「えっ?」


「そうそう。先手取られると、急に萎縮するってか、持ち味死ぬんだよな~」


「ああ、龍之介は先手取られると弱い。あのミスコンの時だってなし崩しだ」


 三人の言葉に、僕はぎくっとした。思い当たる節しかない!


 ミスコンの時は色々言われまくってる内にワケわからず出場させられていた。


「待って。なんで、みんなそんなに僕の事分かってるのさ?」


「そりゃお前~」


「そんなの当然」


「分かるだろ~?」


「「「親友だからな!」」」


 三人は息ぴったりに言い切った。


 僕は驚いた。同時に僕の心の中にあったしこり、僕が産まれてこの方ずっと悩んでいた事がすっと消えていく感覚がした。


 生まれ持って変えようもないものへのコンプレックス。


 それが今、突然解消された。


 そして、僕は家族以外の誰かに『男』だって認めて欲しかったとやっと気づいた。


 それを友人達は叶えてくれた。


「でも、お前忘れたのか? お前を最初にカッコいい男だって言った奴がいたろ?」


「えッ?」


 康介の言葉に僕は目を丸くする。


「春日野だ。俺達は思ってはいても言ったのは今だ。春日野は告白の時点でお前を男だって認めてたんだよ」


『君は広場から飛んできたボールから私と弟妹を身を挺して守ってくれた。そんなの出来る男は君以外いない』


 不意に言われて思い出す。告白された時の事を。


「そうか…、そうだった。春日野さんはとっくに僕を男だって認めてくれたんだ」


「そうだ。だから、お前が春日野に問いただす理由がある。自分を認めてくれた人が何故別れた理由が自分だと言ったのかって事を」


「だな。だから、自信を持って追いかけろ!」


 忠司の言葉を受けて、最後を締める豊。


「良いか、龍之介。この件がどうしても納得できない、春日野の真意を知りたいならお前が動く以外に方法は無い。大丈夫だ。お前ならやれる! やるやらないは結局お前次第だが」


 忠司は僕の肩に手を置き、力強く言い切る。


 その瞳は、真っ直ぐ僕を見据えて離さなかった。


 この件を、進むも諦めるも僕次第…か。答えはもう決まっていた。


「分かったよ。僕は知りたい。春日野さんの言葉の意味を。どうして僕にあんな事を言って別れたか。だから、先に進む。そして出来る事なら彼女を取り戻す。やっぱり納得できから!」


「そうか。なら、思い切って行け」


 忠司が大きく頷き、僕の背を押してくれた。


「そっか。なら、俺らは黙ってお前を応援するだけだ」


「だな。まぁ、その理由がどうあれちゃんとケリはつけねぇとな。結局散ったとしても骨は拾ってやるからよ」


「うん。必ず、彼女の真意を確かめて見せるよ。それで、出来る事なら彼女を取り戻す! そしたら、改めてみんなにも紹介するよ」


 僕は力強く宣言した。


 そうだ。やってやる!


 必ず彼女の真意を確かめて、そして彼女を取り戻す!

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