第23話 推理

「龍之介~」


 暫くして僕を呼びにここにいない筈の悪友三人がやってきた。


 フラれた事実と、それ以上に彼女の残した謎の言葉に混乱していた僕は、三人の呼びかけにフラフラと振り返る。


「見てたの? 今の」


「お、おう。そうだよ」


 僕の問いに、気まずそうな顔をした豊が返す。


「お前が体育館裏に向かう前なんだか様子がおかしい気がしてな」


「段々心配になってきたので。こっそり着いて来てたんだ」


 それに続けて、忠司と康介が言い辛そうに切り出す。


 対して豊は思い切り身を乗り出す。


「俺は違うぜ? リア充どもの行く末なんて、ど~~うでも良いんだが。告白を見ちまったし、最後位見届けてやろうと思ってさ」


「何言ってんだよ。お前だって、『龍之介の奴、大丈夫か? なんか様子おかしくないか?』って心配してた癖に」


「あ、馬鹿! 言うなよ」


 豊を康介がからかうともういつもの空気に変わって緊張も解けていた。


 天然でじゃれ合ってるだけなんだろうけど今はこういうのがありがたい。


「ハハッ、ありがとう。みんな心配してくれて」


 友人達の気持ちに感謝したが何とか笑おうとして乾いた笑いしか出なかった。


「あのな、龍之介。なんと、声をかけて良いか分からないが」


 忠司が困ったように告げる。彼の表情もまた堅い。


 康介も康介で、酷く堅く苦々しい表情だ。


「あぁ、まぁ、大丈夫だよ」


 僕も暗く沈んだ声で告げた。


 気持ちの整理もまるでつかず、どう反応していいか分からない。


「まぁ、なんだ。ああいう事も…ある、かな」


「だよな。フラれる事ぐらい、生きてたら幾らでもあるよな」


 何とか僕を励まそうと、康介と忠司が何とも言えないような発言をする。


 フォローしたくて、全く出来てない。


 どうしよう、この空気。


「ったくお前ら。こんなとこでウダウダしてもしょうがねぇだろ」


 その状況を変えたのは、豊かだった。


 彼は痺れを切らしたように叫ぶ。


「ともかく、まずは場所を変えようぜ! 話はそれからだ。俺も龍之介に聞きたい事があるしな。お前らもそうだろ?」


「あ、ああ。そうだな。豊もたま~~に良い事を言うな」


「そうだな、豊もたま~~~~に良い事を言うな」


「やかましい! ほら、さっさと行こうぜ。学校内じゃオチオチ話が出来ねぇ。カラオケにでも行くぞ」


 それだけ言い残し、彼はさっさと行ってしまった。その後を追って、康介が小走りに走り出す。


「おい、待てって。茶化したのは悪かったよ」


「俺も悪かった。さ、龍之介も行こう」


「うん。行こうか」


 忠司に促されて、僕も二人の後を追う。


 学校を出た僕らは、その足でそのまま駅前のカラオケ店まで向かう。本当は寄り道は良くないんだけど。


 そのままカラオケルームに入り、僕らは狭い部屋で四人ソファに腰かける。


 だが、誰もマイクを手に取ろうとしない。


 場所を変えようという豊の提案に乗ったモノの、何をすれば良いかはよく分からないままだ。


 その内、店員さんがドリンクを持ってきて、康介と忠司がテキパキと皆に配る。


 そして、再びの沈黙…。


「で、だ。龍之介?」


 最初に口を開いたのは豊だった。


「お前、体育館裏に向かう前からやけに様子おかしかったよな? なんか理由でもあるのか?」


 直球で問われ、弾かれたように顔を上げたが、答える事が出来なかった。


 そこへ忠司が言葉を続ける。


「俺もそれは思っていた。お前はあの事態を予見していたんじゃないかって」


 重々しい言葉が、僕の心臓を叩く。目を見開いて、忠司を見る。


「お前さ、何か気になる事でもあったんじゃないのか?」


 そこに康介が言葉を重ねる。そこで僕も観念する。


 ああ、三人は気付いている。


 僕と春日野さんの間に、何かあった事を。


 なら、もう隠す必要はないか。


「実は…」


 ゆっくりと口を開き、遊園地デートでも不可思議な発言について伝えた。


「お前が勇敢な王子か騎士で自分は王子と言われる資格が無い?」


 瞬きをしながら驚いたように目を剥く忠司。


「それは……一体どういう?」


「僕にも分からない。でも、確かにそう言われたんだよ。遊園地デートの別れ際。それも、本音にしか聞こえないような声で」


「はぁ~? どういう事だよ? 自分は王子じゃないって事か? 逆に龍之介が王子か騎士って」


 豊も心底意味が分からないという顔をして眉をひそめていた。


 そんな中、康介だけが冷静に何かを考えているようだった。


「あのさ龍之介。遊園地で何があったか全部聞かせて貰えないか? 特に、春日野との間での事をさっき聞いたよりも詳しく」


 康介はおもむろに口を開く。その問いに、僕は驚く。


「遊園地での、春日野さんとの事?」


「ああ。お前、春日野に対して、何かアクションをしたか?」


 問われ、僕は考える。


 春日野さんとの間にあった事…。あった事といえば…。


「あ、その。僕が彼女の気持ちを読み間違えてジェットコースターに一緒に乗っちゃって…そしたら、なんだかいつもとまるで違う様子で。まるで普通の女の子のような悲鳴を上げてて…」


「女の子?」


 僕の言葉に、忠司は驚いたような反応をする。


「それで…もしかして、ジェットコースター苦手だったのかなって思って。慌てて。ちょっとでも怖さを軽減できればって彼女の手の上に僕の手を重ねたんだ」


「はぁ? 女子の手に、自分の手を重ねて握ったぁぁ?」


 今度は豊が驚く番。素っ頓狂な声がカラオケルームに響く。


 が、忠司と豊の反応を無視して、更に康介は思案している様子。


「それで? その後は何かあったか?」


「ああ、うん。降りた後ジェットコースターは嫌いじゃないって。悲鳴を上げてしまうから苦手ではあるとか」


 康介の更問に答えると、康介は「あ~」と小さく声を漏らす。


「どうかしたの、康介?」


「いや。で、その後何か無かったか? 何か春日野とお前が直接絡む話」


「直接って…後は~。お化け屋敷ぐらいかな?」


「お化け屋敷、でか」


 僕の言葉に忠司が反応する。


「うん。大分日も暮れてきて、そろそろ帰ろうかって言ったら、なんだか反応がおかしかったから。確認したら、お化け屋敷に行きたそうにしてるのがわかって…」


「ああ、それで?」


「その……何だか行く事になったけど、入るのを躊躇ってる感じだったから。もしまた好きだけど苦手なアトラクションで悲鳴を上げてしまいそうだったら僕に捕まっててって言ったんだよ」


 康介に促されて続きを話すと、康介も忠司も何やら気付いた様子だった。


「あ~。何か、見えてきたな~」


「ああ。俺もだ。漫画みたいな話だが今の話だとそれぐらいしか」


 二人はそう言って、僕を見る。


「ズバリ、春日野桜は今まで自分の本性を隠してたって事だ」

「つまり、春日野桜は今まで自分の本性を隠してたという事だ」


 二人同時にまったく同じ事を言われて、僕と豊は目を丸くして


「え~~~~~~~~~~~~?」

「はぁ~~~~~~~~~~~?」


 同時に叫んでしまった。

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