第16話 お誘い

 両チームが自分のサイドに戻る。部長さんを中心にレギュラー陣がに並ぶ。その顔には濃い疲れが浮かんでいるのが分かった。


 何やら話しているようだが、どうにも厳しさを感じてしまう。


 どうしよう。ピンチだぞ。僕に何かできる事はないか?


 コートに立ってない僕にはさして出来る事も無い。


 僕じゃ足手まといだし、この状況で何をすれば良いのか。


 こうしてみている事しか出来ないのが歯がゆい。


 わざわざこうして応援しに来たってのに……。


 応援……。


 そうだ。


 僕は応援しに来たんだ。


 ならやる事は決まってる。


 応援だ!


 応援しなきゃ!


「が、頑張れ~~~、秀英~~~~!」


 思いついた時には、勝手に体が動いていた。


 まだインターバルも終わっていないのに、僕は思い切り叫ぶ。


 その声は体育館全体に響いたようでコート内の両チームのメンバーのみならず、自分たちと同じく応援に来た人達にも届いたようで、皆の視線が僕に集まる。


「頑張れ、秀英高校女子バスケット部! 負けるな~~」


「竹越君」


 そんな僕を見上げ、春日野さんが少し顔を赤らめて呟く。


「あ、姫だ!」


「本当だ、姫だ。来てくれるかもって聞いてたけど。本当に来てくれたんだ」


 口々に叫ぶ選手達。


 その顔には先程までの疲れも何処へやら笑顔が浮かんでいた。


「そうだ。私達には我が校の王子と姫がついている!」


「そうとなれば、負けてられない!」


 ドンドン息を吹き返していく選手たち。


「私達には桜も竹越君もついてる。きっと勝てます!」


 その言葉に、選手一同が頷きあう。


「桜。最後のクォーターだから、速攻で狙うよ。あたしがボールを持ったら、何も気にせず相手のゴールまで走って」


「分かった。私達のとっておきを見せてやろう」


 力強く頷く春日野さん。選手たちが再び円陣を組む。


「さぁ、ここからが本当の勝負よ! 貴方達の力を見せてやりなさい!」


「はい!」


 部長さんの檄に大きな声で答え、選手たちは再びコートに戻っていく。


 この勢い、期待感が高まる。


「よし、僕らも力いっぱい応援しよう! うちの女バスを!」


「ああ。そうだな。ここまで来たら、勝ってもらわないと」


「その通りだ! 微力ながら、俺達も彼女たちの力になろう」


「おうよ! こんないい勝負、勝たなきゃ話にならね~! 行くぞ、お前ら!」


 そして、僕らは力いっぱい応援した。


 すると、相手ボールから始まった試合で、美也子さんのパスカットが見事に決まる。


「行け~、桜!」


 取った瞬間、美也子さんの手からボールが放たれる。そのボールは、相手陣を切り裂き、ゴール下近くまで届く。


 そのボールを、春日野さんは見事にキャッチ。そのままダイレクトシュート。


 相手選手がブロックに入るが、即座に最高点に達したボールはゴールまで一直線に飛びリングに当たってゴールへと落下した。


 途端に轟く歓声。素晴らしいシュートを目の当たりにして、体育館内のボルテージは最高潮へと達する。


 そんな中で美也子さんと春日野さんはハイタッチ。


 その時の春日野さんの笑顔は今まで見た事のない表情だ。


 どこか幼さを含んだ、少女のような可愛さを含んだ笑顔。


 その幼さの中には、今日初めてバスケットボールをやったような無邪気さを感じられる。


 彼女から飛び散った汗がキラキラと光を反射して、より魅力的に見える。


 僕は驚くと同時に何故か顔が紅潮して、心臓がバクバクと高鳴った。


 あんな表情、……するんだな。


 普段の春日野さんからは全く想像つかない、カッコいい彼女にカワイイという魅力を付与している。


 想像しなかったギャップに、僕は自分でもよく分からない気持ちになってしまった。


「どうした龍之介! 試合は終わってないぞ。応援だ、応援!」


 康介から声がかかり、僕は気を取り直して応援を再開した。


 そして、試合は終了、秀英の勝利で幕を閉じたのだった。


「春日野さん!」


 試合終了後、僕は体育館から出てくる春日野さんと合流した。


「ああ。竹越君」


「やりましたね!」


「ああ。これも君の声援のお陰だ。それに君の友人達の声援も利いたよ。応援してくれて、本当にありがとう」


 興奮気味の僕に、春日野さんは冷静に頭を下げた。


「あ、いえ。僕は大した事、してませんよ。勝てたのは、女バスの皆さんが強かったからです!」


「いや。久しぶりの試合で、終盤まで私も地力を出し切れていなかった。君の声で目が覚めたよ。そのお陰で勝つ事が出来た」


 体を起こして微笑む彼女の顔を見て、応援に来て良かったなと心底思えた。


 とりあえず、これで彼女も女子バスケ部での役目を無事果たせた事になる。


 長かったようで、短い四日間だった。


 週の半ばには、同級生に追いかけられ、そのピンチを女バスの美也子さんに助けられたりもしたし。


 勝てて本当に良かったな。


「それでなんだが……」


 しみじみ考えていたら、不意に春日野さんが口を開く。


「なんですか?」


「バスケ部での手伝いも無事終わった事だし……その、」


「?」


「今まで一緒に出掛けたりできなかったから。明日日曜に私とお出かけしてくれないか? 場所は、遊園地に」


「…遊園地にお出かけ、ですか?」


 一息に言われて、僕はその意味を理解できず、頭の中で情報を整理した。


 僕らは恋人同士。その二人が、一緒に遊園地に行く。


 あれ? って事は!


「え? もしかして!」


「そうだ。明日日曜日、遊園地デートをしよう!」


 はっきり言われて、僕の脳裏に浮かんだ事と合致した。


 これは……初デートの誘い!

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