第15話 試合開始
瞬く間に日は過ぎた。
今日は土曜日。女子バスケ部の練習試合の日だ。
「よぉ、龍之介」
最寄り駅につくと、康介が待っていた。
今日は友人達も誘って、女子バスケ部の応援の予定なのだ。
「早いね、康介。そんな乗り気だとは思わなかった」
「龍之介の彼女の晴れ舞台だろ? それに、ウチの女バスは男バスと並んでかなり強い部活の一つだしな。いい写真撮れそうだ」
康介の首には僕も見慣れたデジタル一眼レフがかかっている。
「ああ、なるほど。確かに、見せ場は多そうだしね」
「そうそう。お前の彼女の写真良いの撮れたらお前にもやるよ。写真立てにでも飾っとけ」
「いいよ。母さんに訝しがられるし写真なんて飾れないから」
それから二人が来たのは、割とギリギリの時間だった。しかも忠司が豊を半ば引っ張ってきたような感じだ。
「おはよ、二人とも。なんか豊は不服そうだね」
「当たり前だ、馬鹿野郎! 休日は彼女作りの為にせっせとナンパしてる俺がなんで女バスの応援に来なきゃいかんのだ!」
「まぁ、そういうな。女子バスケ部にも可愛い子はいるかもしれんぞ? それに学内でも女バスの部員達は俺達の事はあまり知らないかもしれん」
悔しそうに言う豊をなだめるように笑って返す忠司。
ナンパなんてしてもすぐに彼女が出来るわけでもないのに。
まぁ、そんな事はどうでも良い。ともかく学校へと向かおう。
我が校が迎え撃つは、地区内のライバルでもある黎明学園。
秀英高校最大のライバル、市内でトップ二校の対戦だそうだ。
どんな試合が見られるか、今から楽しみだ。
そんなこんなで学校へと到着。僕らは客席替わりのバルコニーに上がる。
「で? 龍之介の彼女様は、どのポジションなんだ?」
「センターだよ」
「へぇ~。目立つポジションじゃん。インサイドの花形だな」
豊の問いに答えると、康介が楽しそうに笑う。
確かに、センターはゴールに一番近いところでボールを扱うポジションだ。リバウンドやらポストプレイなど仕事は多い。
練習を見た限り春日野さんの実力は十分だが大丈夫だろうか。
「ウチの女バスの実力はどんななんだ、龍之介?」
「練習を見ている限りではかなり動けるし、しっかり連携も取れてた。素人の僕でも流石強豪校だなって思ったよ」
「そうか。確かにアップの動きを見ても良い感じだ。問題点はあるが」
「問題って?」
「春日野はバスケ部員じゃないだろ? 高校入学でバスケから離れてたのなら久々の試合だ。思うように動けるかどうか」
僕の不安をズバリと言い当てる忠司。
元々、友人達は例外なくスポーツ観戦を好むタイプだ。僕よりスポーツを見る目に肥えているわけだからその予想は当たりそうで怖い。
「そうだな。初めから春日野に頼ったら勝つのは難しいかも」
さてかわいい子は、と真面目な事言ったと思ったらすぐいつもの調子に戻る豊。
まったく豊はぶれないんだから。
「あ! あの子は山岸美也子ちゃんじゃないか!」
「え? 豊、美也子さんの事知ってるの?」
「当たり前だ! 密かに可愛いと噂される美少女で、学内には彼女の隠れファンも大勢存在する。王子の影に隠れているが彼女は我が校の可愛い子ランキングでも上位常連だぞ?」
饒舌に話す豊に少し呆れる。
バードウォッチングもそうだけど学内可愛い子ランキングってなんだよ。
「そんな話はどうでも良い。そろそろ始まりそうだぜ、試合」
コートを指さす康介に従って、視線を豊からコートに向けると両チームのウォーミングアップも済んだようだ。
そしてそれぞれのチームのレギュラー陣が円陣を組んでいる。
「秀英~~~~~! ファイト~~~!」
「オォォ~~~~~~~~!」
いよいよ始まる。我が校必勝を誓った練習試合が…。
思わず生唾を飲み込んでしまう。
「秀英高校対黎明学園、試合を開始します!」
『「「「よろしくお願いします!」」」』
「さぁ、ジャンプボールだ。ここ、まず大事だぞ?」
康介が呟きカメラを構える。同時にボールが宙に投げられた。
「あ!」
先にボールに手が届いたのは春日野さん。
すぐ後にボールに触れたセンターは力任せにボールをはたく。
「最初は相手のターンだ!」
康介が鋭く叫ぶ。そうこうする間に、ボールは相手に渡り、試合が始まる。
「さぁ、最初の一本。じっくり行こう」
相手チームのポイントガードと思しき選手がゆったりとドリブルしながら周りの選手に告げる。
「まずここ! 一本止めるよ!」
そこからはあっという間の攻防だった。
ボールが敵味方に次々ボールが渡り春日野さんがシュートをブロックしたが運悪く相手シューターにボールが渡りそのままスリーポイントシュート。
「いきなりスリー!」
今度は忠司が叫ぶ。
放られたボールは綺麗な放物線を描きながら飛翔しそのままリングに当たる事もなくダイレクトにゴールへと入る。
黎明、いきなりの三点。
「あ~くそ! いきなりやられた! しかもスリーかよ」
悲痛に叫ぶ豊。いつの間にか女の子そっちのけでバスケの試合に集中している。結局すぐのめり込むのが豊だ。
「最初は黎明か……しかも最初からスリー。今のは完全に不運な形だったがいきなり三点だと相手が調子を上げてくるかも」
康介が悔し気に呟く。
が、そんな事を言うのも束の間。
美也子さんは即座にボールをコートの先、相手陣地まで投げ込みそれを受け取った選手が即座にレイアップ。
「おお~、早い。点が入った時点で走ってたな、今の」
忠司が感嘆の声を上げる。確かに今のは早かった。
練習でも見ていたが、美也子さんのパスは正確で狙ったところに入るし上手く体のばねを使っているのか敵陣にも平気で届く。
「凄い……」
「ああ。二点だが今のはデカいぜ。良い速攻だった。この試合まだ分からねぇぞ」
嬉しそうに言う康介。確かに、今のシュートで相手チームの選手にも少し動揺のようなものが見える。試合はまだこれからだ。
康介の言う通り、そこからは一進一退の攻防が続いた。容易に点を取る事は出来ないが、相手にも簡単に点はやらない。
両チームとも締った息もつかせぬ攻防。
しかし、最初の三点が響いて点差が一点だけだが縮まらない。
「あ~、今のスリー。惜しかった。上手くリバウンドからダイレクトに得点したが、点差が一点縮まらね~」
康介が渋い顔をして試合展開を評する。
その通りだ。
得点は、黎明と秀英、ほぼ交互。
離される事はないが、このままでは逆転は難しい。
そして、春日野さんも得点に絡むシーンはあれど、得点するシーンは無くリバウンドやブロックするシーンばかりが目立つ。
気付けば試合は第三クォーターの終盤に差し掛かっていた。
何とか逆転しようと、我が校のシューターさんも果敢にスリーポイントを狙うがどうしても入らない。
相手チームも、最初の一点以外はスリーの妨害には成功しているが、こちらも流れには乗り切れない。
相手もこちらのスリーは要警戒で打つ事さえ難しいぐらいだ。
そして、試合は第三クォーターも終了してしまった。
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