第10話 明日から彼氏

「はぁ~~……」


 春日野さんが帰った後、僕は体育館の壁に寄りかかってため息を吐く。


 苦し紛れに捻り出した答えだったが、何とか彼女の好意を無下にせずには済んだ。


 誰かに告白するなんて結構な勇気が必要な事だろうし何とか丸く収められた。


 そして僕があんな人と付き合うはおこがましいと思うところまでちゃんとカバー出来た。


 あれで良かったのかは分からないけど。


「龍之介~~」


 そうしていたら、隠れていた康介達がやってきた。


「ああ、康介。待たせちゃってごめん」


「いや。それは良いんだが。まさかマジで告白とは思わなかったな。しかも、我が校の王子からなんて。こんな事があるなんて思わなかったぜ」


「そうだね。僕もどうしたら良いかわからなくて困ったよ」


 力無く笑い、康介に応対する。その横から怒る豊と忠司も顔を出す。


「そうだぞ! あんな美人に告白されるなんて! うらやまけしからんにも程がある! どういう事だ、龍之介~~!」


「お前の事を男らしいと言っていたが、昨日何かあったのか?」


「ああ。それはね……」


 僕は昨日の出来事について、三人に話した。


 今回の事は、その結果って事らしい。


「なにぃぃ~!飛んできた野球ボールから、彼女を守った?」


「うん。大分、無様にだけどね」


「おのれ、龍之介! ヒーローみたいな事しやがって! ちくしょう! カッコいいじゃねぇか! だが、俺だって美少女のピンチに出くわしたら颯爽と現れ、助けるぐらいの事は出来る!」

「いや。豊の場合、助けに行っても空回りして失敗しそうな気しかしねぇけど。にしても無茶したな。顔面でホームランボール受けるとかさ」


「ああ。球場でファールボールにお気をつけくださいと言われるぐらいだしな。飛んでくる打球はとても危険なんだぞ?」


 三者三様の反応をする悪友達。


 いつも通りの豊と僕を心配する二人。何だかんだ三人は僕を男と認めてくれているし、心配もしてくれる。


 三バカなんて言われているけど、僕にとっては大事な友達だ。


「一応、お医者さんで検査もしてもらったけど、異常なしだってさ。頭蓋骨が硬かったとかでね。だから、大丈夫だよ」


 そう答えて、僕は寄りかかっていた壁を離れ、落としていた鞄を拾う。


「さ、もう用事は済んだから。早く帰ろう。康介の家で新作のボードゲームやるんだろ?」


「ああ、そうだった、そうだった。よっしゃ。早く帰ろうぜ、みんな。新しいボードゲームが俺達を待っている!」


「悪ぃけど、今はボードゲームどころじゃなくて、龍之介が告白された件について考えねばならん! 俺は一人でバードウォッチングに行くからパスだ!」


「約束してたろうが。今更キャンセルは無しだ。ほら、行くぞ」


 そうして僕らは学校を後にした。


帰り道は、僕の告白についてあーでもないこーでもないと談笑をしつつ帰途につく。


 そのまま家に帰って着替えてから康介の家に集合。


 それから数時間、康介の買った新作ゲームに興じ、今日は別れとなった。


 その後、帰宅した僕は夕食を済ませ、部屋で一人ベットに寝ころび考える。


「恋人としてお付き合い……か」


思い出すのは、今日の告白。


康介たちには「身を挺して女の子守るとか昭和の日本男児かよ」とからかわれたが結果的にそれが功を奏す形となってしまった。


「君を愛してしまったようだ」


 ただ、あの告白は、思えば随分大袈裟な物言いだった。


 思い出すだけで頬が紅潮してしまうくらいなのだが学生が告白する場合、『好きです! 付き合って下さい』くらいだと思うのだが、愛してるというのは中々に飛躍した発言に聞こえる。


 なぜ、彼女はそこまで言ったのだろう。


 彼女の事は、まだ全く分からない。話した事すらないのだから当然だ。


 彼女も、僕の事を知らないのだが、あの昨日の事だけで、愛してるまで言う程だったのかな?と疑問に思う。


 ホームランボールから彼女を守った事が、どうしてあんなにも心に響いたのか。


 康介達が言ってた通り、どう考えたって無謀、考え無しな行動なんだから。


 考えれば考える程、謎は深まるばかりだ。


「……ふぅ~。まぁ、考えてもわからないか」


 僕はベットから体を起こす。


 どの道明日から本格的な交際が始まるのだ。


 そうして付き合う内に謎が解ける事もあるかもしれない。


「彼氏か~」


 一体何をすれば良いのか、皆目見当もつかない。


 憧れの相手と恋人関係なんて、ちゃんと結べるのか?とも思ってしまう。


 顔を合わせるだけで緊張するし、余計女の子のようにしか見えないのではないか?


「まぁ、考えても仕方ない。お風呂入って寝よう」


 僕は部屋を出て、下の階へと降りていった。


 その時は、翌日からあんな事になるなんて事、考えてもなかった。

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