第7話 いつもと違う気配
その日も、僕はいつも通りに登校し朝を過ごした。
普段とは少し違うタイプの視線を感じたのはそんな時だ。
振り返ったが周りは僕に目も暮れずに談笑しているだけ。
視線を感じる事は僕にとっては普通の事だ。
ただし、それは綺麗な絵画でも見るような視線なのだ。
対して、今のは何だか好意的なモノを含んでると感じた。
なんだろう?
考えていたが、廊下にいる生徒の一人が僕に気付いて『姫!』と口走り、その瞬間さっきの視線を感じなくなってしまった。
僕は慌てて探すが、好意的な視線は消えてしまい誰から向けられたかもわからなかった。
釈然としない気持ちを抱えながら僕は教室へと戻った。
それから、授業の合間の休み時間にも同じような視線を感じ、僕の疑問は更に深まってしまった。
わけもわからぬまま昼を迎え、友人達の三人で屋上で昼食をとる事にした。
屋上に来ようと言ったのは僕だ。
もしここで例の視線を感じたなら屋上から見下ろせば視線の主が誰なのか分かるかもしれない。
上から見下ろせば、見つけ出せる可能性は高いと思う。
「あっちで食べようか」
わざと校庭側の柵へ寄って下から見える位置に移動する。
下からでも確認しやすい位置なら視線の主が誰か分かる筈。
「なぁ、龍之介。お前が飯食う場所を提案してくるの珍しいな」
「うん。何か見晴らしの良い場所でご飯を食べたくなってね。ここなら、空も校庭も見渡せるから」
康介の問いに何でも無いように答える僕。
「青い空を見てると、何か落ち着くんだよね」
「そういうモノか。確かに綺麗だもんな、今日の空は。写真に収めたいぐらいだ」
康介も納得したようで空を見上げて気持ちよさそうにする。
「うむ。屋上か。スカートの中身のアンスコは見れないが可愛い女子を探し出すには便利かもしれんな!」
「ああ。ここなら、誰かが告白なんてしようものなら一発で見つけられて、妨害できるもんな! 俺が幸せじゃないのに、幸せになるなんて許せない!」
対して忠司と豊はそれぞれどうしようもない事を言い出す。
因みに、昨日はまだ女子には捕まっていないが、こんな調子じゃまた何処かで捕まりそうな気がしてならない。
というか豊。
勇気を出して告白しようとする人の妨害をしようとか、色々ダメでしょ。
良いから真面目に彼女でも探しに行って欲しいモノだ。学校の女子はダメだろうけど。
そうして、僕らは昼食にとりかかる。
その間、他愛も無い世間話などを交えながら、友達と楽しいランチタイム。
「テニス部の一年の子。小柄でまだ肉付きも良くないが真面目に練習しているからその内もっと強くなる! 同時に肉付きもよくなって女の体になりバードウォッチングのしがいが」
「最後の一文は絶対要らなかったと思うけど……」
「何処かに俺の孤独を癒してくれる女神はいないのか! 全世界の半数が女子だとして、俺だけの女神は何処にいるんだ!」
「とりあえず、バードウォッチングとか辞めないと出会わないと思うぜ?」
ちょくちょく忠司と豊がどうしようも事を言っては、僕と康介からさらっとツッコまれる。
「そういや昨日姉ちゃんがさ。化粧品を解約してて。何だっけ。あの~。ドモ……ドモ何とかっていう化粧品。姉ちゃんがお試ししたらしいが、あれはもっとご年配用だって止めたらしい」
「ドモ〇〇〇リ〇クルだっけ? 安物から国宝になるって奴」
「まずはお試しセットからって奴だろ? でも、何でお前の姉さんがそんなの試すんだ? 対して年変わらんだろ」
「そうだよ。まだ大学生だよ。バイト先の人が勧めてきてその人もまだ若い人だったからってさ。でも、お試しって良いよな。合わなきゃ辞めれば良い。俺にも誰かお試しで付き合ってくれる美女はおらんものか?」
「そういうお試しは聞いた事が無いが、お前が告白してならお試しで付き合ってみる~ってのはありそうだな。今みたいな行動してたら無理だろうが」
「人生、精進あるのみだ。今はまだ、バードウォッチングに勤しみ、俺達の良さが分かる人が出てくるのを待とうじゃないか!」
「だぁ~。お前ら、現実的すぎぃ。夢見るぐらい良いじゃんか」
そうこうする内に食事は終わり暫くは友人同士の談笑が続く。
穏やかな天気の下、見晴らしの良いところで仲の良い友達と話をして過ごすのは良いモノだ。
空を見上げながら、そんな事を考える。
再び視線を感じたのは、その瞬間だった。
僕は慌てて立ち上がり、視線の方角へと目を向ける。
「……、!」
視線の先にいたのは、我が校の王子様、あの春日野桜さんだ。
春日野さんは友人と話しながら校庭を昇降口に向かっていた。
他に誰もいなかった。
意外過ぎる答えに僕は動揺を禁じ得なかった。
春日野さんと僕に接点は無い。
僕らは姫と王子と言われてるだけで話した事も無い。
「あッ」
ふと思い出した。
接点が無い筈の僕たちだったが、よく考えたら昨日春日野さん達姉弟妹を助けたという接点があった。
もしかしたら、そのお礼を伝える為に僕を探していたのかも。
そう考えれば、何もおかしな事は無かった。
そっか。
昨日の礼か。
別にお礼を求めての行動じゃないけど、助かったからお礼ぐらいは言いたいのが人だ。
ようやく朝からの謎が解けて、僕はほっとした。
「どした、龍之介?」
納得した僕の背後から、康介が声をかけてきた。
「何かあったか?」
「いや。何か見られてる気がしたけど。気のせいだったみたい」
僕は頭を搔きながら誤魔化し、僕らは教室へ戻った。
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