第4話 悪友達の日常

「お~、龍之介。康介」


 教室に入ると、借り上げ金髪のオシャレ風男、友人その2の佐渡嶋豊と今時珍しい角刈りの巨漢、友人その3の大須賀忠司が待っていた。


 声をかけてきたのは忠司だけだった。豊は歯を食いしばってプルプル震えている。


「おはよ、忠司。って、豊はどうかしたの?」


「好きだった女優さんが結婚発表した事にショックを受けて、ずっとこの調子だよ。こいつ、ビックになって結婚するつもりだったみたいだからさ」


「あ~」


「いつものか」


 忠司の説明に納得し、苦笑する僕と康介。


 対して呆れる僕らに豊がガバッと振り返り僕の肩を掴む。


「うるせぇ! 来て早々にいつものとか言って呆れてんじゃねぇよ、お前ら!」


「あ、おはよ、豊」


「のんきにおはようとか言ってる場合か! あの国民的人気若手女優の新堀ユウちゃんが、結婚しちゃったんだぞ! しかも世間では普通の男と言われてるあのイケメンの天才、月野ケンと! こんな事ってあるかよ! 美女がイケメンと結婚とか、フツメンの俺達への当てつけみたいじゃねぇか! こんな事許されて良いのかよ!」


「まぁまぁ落ち着きなって。仕方ないよ。芸能人なんて、僕らの手の届かない全く違う場所を生きてるんだし、それぞれにそれぞれの日常があるんだから。誰が誰を好きになって結婚したって誰にも文句言う権利は無いんだから。それに、新堀ユウちゃん以外にも可愛い子はいっぱいいるし。絶望しなくたって良いと思うよ」


 やや押されながら宥める僕。まぁ、これも日常だし、慣れたから別に良い。


「畜生! 世の中不公平だ! どうして俺は、ユウちゃんと同じ年に生まれられなかったんだ! そうしたら、芸能界入りして、ユウちゃんの心を射止められたかもしれないのに!」


「いや~。仮に同い年で芸能界入りしてても、そう上手く行ったとは限らないぜ。ほら。久森好美ちゃんの新しい写真集貸してやるから、落ち着けよ」


 詰め寄られている僕を見かねて、康介が鞄から人気グラビアアイドルの写真集を取り出して豊に渡す。


「くっ! クソ! こうなったら、ユウちゃんから好美ちゃんに鞍替えしてやる! もうユウちゃんなんて見たくもない! ちくしょ~~~う!」


 吠える豊。


 そしていそいそと渡された写真集を鞄にしまう。


「そうだ、豊。可愛い子が一人減ったなら、また次の可愛い子を見つければ良い。俺もユウちゃんの結婚はショックだったがな。すぐに切り替えたぞ!」


 忠司が豊の肩を叩きしみじみと言う。


「因み俺は女子テニス部のヒラヒラ舞うスカートとアンダースコートを眺めて心を落ち着けた。放課後一緒にバードウォッチングにでもどうだ? 絶対に見つからない穴場を見つけたんでな!」


「ああ、行こうぜ忠司! 可愛い野鳥の舞う姿、俺も目に焼き付けるぜ!」


 忠司とがっちり手を組み、豊は力強く頷く。


 そうして、ようやく豊が落ち着きを取り戻す。


 やれやれ。


 いつもながらというかなんというか。


 芸能人の結婚とか、学校の誰かが付き合ったって話とかを聞くたびにコレなんだから。


 ある意味純真なんだよな、豊って。それが困るんだけど。


 僕は呆れ混じりのため息を吐く。


 忠司と豊、そして康介はさっきも言った通り僕の友人達だ。


 学校では、俗に三バカなんて言われてる。


 噂好きでデバガメな情報通のイケメン康介。


 堅物だけどムッツリスケベな女の子好きの男前な忠司。


 そして夢見がちな非モテそれなりにイケメンの豊。


 これに僕を加えた四人が、この学校の名物の一つだ。


 姫の近くに蔓延る三馬鹿なんて言われてる。


 ある人なんか、三人を僕から引きはがそうとしたんだから。


「こんな奴ら、姫には相応しくありません!」


 まぁ、人付き合いは他人にどうのと言われる筋合いはない。


 僕がやんわりとお引き取り願ったが、中々面倒な人だった。


 それにいつもこんな調子でもこの三人は何だかんだ良い友人なのだ。


 少なくとも、僕を姫なんて言ったりはしない。


 まぁ、康介はカワイイ呼ばわりしてくるけど。


 豊と忠司は高校に入ってからの付き合いだ。


 この学校に僕の中学校から入った人はあまりいない。


 必然的に康介と殆ど二人になったわけだが、二人とは一年の頃に二人が覗きに失敗した時に知り合った。


 最初はよくない人達だと思ったけど、付き合いが出来てみると案外いいところもある。


 忠司は見たまんま硬派な感じだし、豊もなんだかんだで友達付き合いを大事にするタイプ。


 まぁ、周りにはあんまり伝わってないんだけど。


 特に豊ももうちょっとちゃんとすれば、良い人見つかりそうなのにな~。


 と、そんな事を考えていたら、教室の前扉が開いて担任の海原和美先生が入ってきた。


「お前ら~。ホームルームの時間だ。席につけ~」


 和美先生はいつも通り良い感じに力の抜けた声で告げ、教壇につく。


 そうして、学校での一日が始まる

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