第2話 毎朝のこと

 昨日の朝は、いつも通りすっきりと目が覚めた。


 僕はベットを降り、部屋に置かれた大きな姿見の前に立つ。


 そこに映ったのは、いつも通りの僕の姿があった。


 綺麗に整った目鼻立ちに、長いまつ毛と白い肌。


 頬は化粧してなくてもピンクに染まり、唇も血色の良いピンクでとても瑞々しい。


 髪もサラサラ艶々で朝日を反射して天使の輪が出来ている。


 何処からどう見ても女の子にしか見えないような顔立ち。


 おまけに体格も華奢で、見た目には男らしさの欠片もない。


 髪は短くして、少しでも男に見えるようにしているつもりだが、ボーイッシュな美少女にしか見えないと皆から言われる。


 一応体も鍛えているのだが一向に筋肉もつく感じがしない。


 細身な体も相俟って、女の子に見えても仕方ないか……。


「はぁ~……」


 大きなため息が漏れる。


 毎朝起きると最初にするのが姿見で自分を確認する事だ。


 寝て起きただけでいきなり見た目が激変する事も無いが、確認せずにはいられないのだ。


 これが僕のコンプレックス。


「何で僕、こんななんだろう」


 そして決まって毎朝ボヤく。ボヤいても何も変わらないのに。


 因みに、声も声で、声変わりで少し低くなっただけ。


 可愛い声から普通の少年ボイスになっただけ。


 中二の声変わり時期なんか皆声が低くなるのに僕は少し低くなっただけ。


 あの時は本当に絶望的だった。これから分かるけど、声ぐらいは低くなると信じていた理由もあったから。


 そんなわけで、声変わり時期から僕はずっと女の子みたいだと言われて生きてきたのだ。


 それ以来、ずっと悩んでいる。


 多分、僕よりも深刻に悩んでる人なんていないんじゃないか。


 こんな調子じゃ僕は誰にも恋なんてしないんだろうな。


 初恋すらまだ……いや、幼稚園の時に同じ組のみよちゃんの事を好きになったから多分初恋だけは済ましている…と、思う。


「はぁ~~~」


 長めなため息を吐き出しどんよりした気持ちを一緒に吐き出す。ここまでが朝のルーティーン。


 鏡には困惑したような、でも悲しいような、感情が読み取れない複雑な表情が浮かんでいた。


 あ~。


 これは多分解決するのが困難な悩みを抱えてる証拠なのかもね。


 他人事のように思いつつ、気を取り直して着替え階下へ降りる。


 リビングの扉を開けば、テーブル前に座って新聞を呼んでいる父さんがいた。


 筋骨隆々で、見るからに屈強そうな見た目。顔も男くさく、やや強面。


 サングラスをするとヤクザに間違われる僕の父、


 僕にこの人の遺伝子が受け継がれてるなんてとても信じられないがこの人は紛れもなく僕の父だ。


 こんな父さんだったから、僕は声が低くなると思っていたんだ。実際は全くだったから絶望したわけだ。


「おはよう」


「おう、龍之介。今日も早いな。我が息子ながら感心だ」


 父さんは新聞を読みながら優雅にコーヒーを飲んでいた。どうやら既に食後のようだ。


「ああ、龍ちゃん、おはよう。待っててね。すぐに朝食できるからね」


 父さんと話していると、今度はキッチンから美人の女性が顔を出す。


 僕の母、竹越綾乃である。


 見た目は本当に僕そっくり。


 綺麗に整った目鼻立ちに、長いまつ毛と白い肌。


 頬は対して化粧してなくてもピンクに染まり、唇も血色の良い綺麗なピンク。


 黒くサラサラで瑞々しい長い髪。


 僕より大人っぽい見た目な誰が見てもの美人な母。


 僕の見た目に関わる遺伝子は、絶対全部母さんからである。


 もっと幼い頃は娘だと勘違いされるくらいだ。


 僕のコンプレックスの元。


 ただ、別に母さんに恨みがあるわけじゃなくて、父さんの容姿を何一分けてくれなかった神様の悪戯を恨んでいるだけだ。


「それで龍之介。学校はどうだ? 二年に上がって変わりはないか?」


 そして、毎朝のように親との取り留めのない会話が始まるのだった。


 ここまで全ていつもの朝。


 程なく朝食が食卓に並ぶ。


 それを平らげながらとりとめのない会話が続いた。


 そして時間も過ぎ…


「さて、それじゃ行ってくる」


 会社に向かう父を見送り暫し。


 僕も鞄をとって立ち上がる。


「それじゃ、そろそろ僕も行ってくるよ」


「はーい。気を付けていってらっしゃい」


 母さんに送り出されて、僕も家を出る。 


 すると、四月の柔らかい日差しが目に入る。


 まぶしくて少し目を細め頭上を見上げれば雲一つない快晴。


 冬を越えて暖かくなり過ごしやすくとても気分がいい。


 もうすっかり春だな。


 この間まで冬だったととても思えない。


 春の空気を吸うとやる気もみなぎってくる。 


「よし、行くか」


 僕はポケットの顔隠し用マスクをつけて駅へと向かった。

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