第4話セカイの終わりと始まりのガンナー(終末世界×宗教×クローン)
「世界の終わり」という砲台がある。
砲台は砲台自体が攻撃装置としての機能を内包しており、とある山岳の頂上で金属的な輝きを放っている。大砲の標準は宇宙に向けられており、それには理由がある。
終末論という言葉がある。どの文化でも宗教にも現れる概念。
全てに終わりがあり「無」「神」などの言葉によって収束、または新たな階層へと進む、またはその歴史そのものが目的であるという概念。
それは希望と絶望である。
思考すること、計算することを機械によって外部委託し、その電子上の能力によって何倍にも知覚される世界が広がった時代。人類が有機体としてもてる能力の限界まで、地球上を管理できるようになった。
未来への予測の精度もあがり、地球上における将来への不安が減ると、人類はあらためて宇宙に目をむけた。
カルダシェフ・スケール。宇宙文明の発展度をしめすこのスケールにおける人類の立ち位置は未だにタイプ1であり、宇宙全体でみると未開文明であると言ってよい。
宇宙研究は遅々として進まず、新しい発見は紙にまいた胡椒の一粒を見つけただけのようなものであると自覚させられるだけなのだ。
となれば、宇宙に対する宗教が生まれてくるのも必然と言えた。
ガンナー教。
この名は戦闘時、前身する兵士を支援した分隊支援火器射手のことをさす「ガンナー」からとられ、宇宙の脅威への最前線に立ちたいという開祖の願いがこめられたものである。
開祖は優秀な経営者であり、あらゆる先鋭的な研究に支援する活動家であったが同時に思想家でもあった。
宇宙からくる脅威に本心から怯えていたのである。
つまり「世界の終わり」は人類世界の無自覚な恐れを自覚したたった一人によって建設されたのだ。
「つまりだ」
砲台の守り人である彼は意味ありげに言葉を区切る。
講義を聞いている相手が理解できているかは不明だったが、この話はとても重要なのだ。
「当時、この砲台はもてる技術のすべてをこめて作られた。ガンナー教の信者は有識者の中におおかったんだ。もちろん、金が理由の一つであることは間違いない。潤沢な資金はそれだけで信仰に価するからな」
相手の表情を読むことも忘れ、彼は彼自身の言葉に酔っていく。
「完成した時、開祖はこの砲台に居住することにした。この砲台を動かす時、それを機械にも他人にも任せることは出来なかった。世界は自分であり、人類の未来と自分の決定は同じでなければならなかったからだ」
彼は天井を見上げ、砲台の先にある大大砲を思い描く。
銀色に輝く巨大な砲身。エネルギー波を充填する補助装置。それはたった一つのボタンから制御されている。
「そして彼はこの砲台を使うことなく死んだ。それはとても幸せなことだった。砲台がある事で彼は安心できたし、死への不安が一つ解消されていたからだ。だが、問題は残る」
彼は行儀よく座っている相手を見た。
「誰がこの砲台を引き継ぐのか」
ここでようやく相手は頷いた。力強く、確信をもって。
彼の講義の相手は子供だった。子供にしては利発そうだったが、老猾な雰囲気もある。
「私ということですね」
彼も頷いた。彼と子供はよく似ていた。彼の幼少期は目の前の子供であり、子供の未来は彼であった。
「そうだ。君が開祖から23世代目の開祖自身だ」
22代目の彼の寿命はもうすぐ尽きようとしていた。これが最後の仕事となる。
開祖の身体から繰り返しつくられた彼自身のクローン。
この日をもって次世代へと任務は受け継がれるのだ。
「けれど」
子供は手をあげ質問の許可をとる。
「この施設はアンティークと言ってよいですよね。前時代的とも言えますが、全てにおいてスペックが低い」
そう。技術革新は続き、カルダシェフ・スケールのタイプ2まで進んだ人類にとってこの施設には子供のおもちゃほどの価値しかなくなっている。
「そこで私は君と議論したい。終末論の拡大についてだ」
「なるほど」
二人は頷きあう。理解できる相手との会話というのは言葉数が減るものなのだ。
何日もかけて二人はありとあらゆる真理、原理、思想について話し合った。
地球は人類において必要だろうかと。
必要であるという意見は却下され、何度も持ち上がった。
不必要であるという意見も却下され、何度も持ち上がった。
今回で8度目の議論になる。
開祖の頃以上に発達した技術はクローンの思考も変えていった。その時代、その時代に即した形で合理性を持ったからだ。
今度こそは結論をだしたい。子供はそう願う。
おもちゃだと馬鹿にする大砲は、宇宙への、まだ見ぬ地球外生命体への接触不良をおこしかねない人類を後押しできるはずだ。
あのボタン一つで世界は終わり、そして始まるのだ。
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