第3話 初心者ダンジョンvr2 変だけど、本物の攻略者
変な人と関わっちゃった最悪。
鳴り止まない音を背にして。わたしと蒼はあたりを警戒しながら、声を顰めて会話する。
「わたし知ってるよ、魔物に攻撃できなくて、逃げ回って、助けてもらってばかりいる人」
「まさか、わざと魔物を呼び寄せてるんじゃないよね?」
「それで視聴数稼げてるとか、世も末だよ」
「でも、それにしては…………なんか感動した、みたいな感じに聞こえない?」
「知らないよ。音楽なんて全然わからないし。……まぁテンション上がる曲ではあるかも?」
わたしはうんざりしたようにカメラを見る。
嘘でしょ!? 同時接続千人超え!? 今の日本の人口何人だっけ。最近聞いたのにっ、えーっとえーーー。出てこないわ。
「蒼、今の人口何人だっけ?」
「え? なに急に。えっと……四千万人切りそうだった気がする」
「だよねだよね! 見てここ。ダンジョン配信なのに馬鹿みたいな数字が出てる。バグかな?」
「ダンジョン協会が許すと思う?」
:少女たち聞こえてるぞww
:何があろうと、カガリくんに悪意はありませんよ。(気をつけて)
:すごいよなぁ
:画面見ずに、曲を聞くためだけにいる人も何人かいると思う
:リアタイと編集された動画じゃ、なんか違うんだよな。
:おい消されるぞw
:のんびり散歩〜
変だ。配信者も変だけど、視聴者も変だ。配信してるから大丈夫かと思いきや、やっぱり関わっちゃダメな系かもしれない。
わたし達が画面を凝視していると、響いていた音が止まった。
「私の見せ場を奪うなんて、やるね」
変人だぁーーーっ。
「キリッと変なこと言ってる」
「うん、残念なイケメンだね」
「いくら私が美しくても、惚れてはダメだよ」
これは人の話聞いてないな。クラスにいたら絶対ハブられるか、煙たがられるよ。
カガリさんはわたしと蒼交互に見ると、目の保養になる微笑みを浮かべた。
「一緒に行ってもいいかな?」
それはちょっと……。
蒼も同じようなことを思ったのか、微妙そうな顔をしている。
どうにか穏便に断りたいけど…………。
「……ダメ?」
なんて心を抉ってくるしょんぼり顔っ……! そんな顔されたら、ダメとか言えないでしょ。
「どうする? 元気」
「……仕方なくない? いいよ。一緒に行きましょう」
「よかった!」
切り替え早ぁ……。
一体どこから取り出したのか、カガリさんは鏡を取り出すと、髪の毛を整えながらドヤ顔で言う。
「唐突だけど、先輩風吹かせていいかな」
「……どうぞ?」
今のところ良いところなしだけど、一応先輩だし。顔立ててあげないとね。
蒼も同じことを思ったのか、促すように頷いていた。
「どうやら君たちは、このダンジョンについての知識が不足しているようだね。命に関わってくるから、安易にダンジョンに入るべきではないよ。せめて情報収集は万全にしないとね。わた――」
「ダンジョン内で演奏してる方もどうなの?」
わたしが飲み込んだ言葉を蒼が言った。
下手な攻略者にそんなこと言ったら、即喧嘩だよ蒼!?
普段おとなしい蒼をギョッとして見ると。蒼はカガリさんのことを信用していなさそうに、冷ややかな目を向けていた。対するカガリさんはキョトンとしている。そして笑顔になった。
「確かに! 危ないから真似してはダメだよ」
「誰も真似しませんよ」
「よかった。私のせいで誰かが傷つくのは耐えられないからね」
「傷つくって言うか、普通に死にますし」
何この状況。
ポーズ取ってるイケメンに蒼が粗探ししてる……。
「蒼、何ムキになってるの」
「なってない。カガリさんが変なことばっかり言うから言ってるだけ」
「そうだね。蒼さんの言ってることは間違ってないと私も思うよ」
なんでわたしが悪いみたいになってるのっ!? 訳わかんないっ!!
「もう行こ!」
「そうだね」
「楽しい冒険になると良いね」
冒険って……子供じゃあるまいし。………………でも、冒険か。楽しそうっ!
なんだか、心がふわふわする感じがした。
「ところで、二人はどうしてここに?」
「うっ、初心者ダンジョンは余裕だと思って……」
「友人に『初心者ダンジョン余裕だった』って言われて」
「二人はとてもピュアなんだね」
煽られてるわけじゃないってわかってるけど、だからこそなんか、グサッときた……。
「スキルに恵まれてないからかな……」
「実際三回来てるし、その時にはあれみたいな小さい魔物しか会わなかったし」
そこへ、ちょろちょろともはや見飽きた小さなトカゲの魔物が歩いてきた。こちらを見るとすぐさま襲いかかってくる。
あれでも立派な魔物だ。
小さなトカゲは指一本程度の大きさで、飛びかかってきたところをわたしが盾で殴りつける。
既に瀕死のトカゲに剣を刺すと、バンッと黒い煙となって消えた。
残るのは小さな小さな青い魔石一つだけ。
「いいね! 魔物に恐れをなさないその姿、かっこいいよ!」
「いや、お世辞とかいいよ」
「本当のことを言ったまでさ」
カガリは空間からリコーダーを取り出す。
「伝わらないのなら伝えよう、この音楽で!」
「待って待って待って!!」
「伝わりました! 伝わってますー!」
♪〜〜〜
アキト:ごめんな二人とも、俺から謝っとくよ
:話し < 演奏
:安心していいですよ。口が塞がってるので話せないだけです
:ポジティブお化けでごめんな
:草
:演奏終わるの待つしかない
わたし達が全力で止めにはいるも、奮闘虚しく。カガリさんはリコーダーを吹き続ける。
響き渡る音はおそらく四階層全域に響き渡っていることだろう。大きいのに不思議とうるさくは感じない。もしかしたら、音系のスキルを持ってるのかも。それとも魔法?
「う、嘘でしょ」
「あーもーーーっ! 止まってよっ!」
掠りもしないってなによ!? どうなってんの!? 二対一で触れられないなんてあり得る!?
わたし達はカガリさんの演奏をやめさせるために、囲んで掴もうとする。しかし、するり、くるりと抜けられ、本当に手が掠りもしない。
「蒼、合わせて」
「任せて」
わたし達の動きの変化に、カガリさんの速さが増した気がした。
くっそ。
リコーダーの音が一切乱れない。それって呼吸も一切乱れてなくて、わたし達の行動が完全に読まれているってことじゃない!
囲むように陣取るも、一瞬の隙をつかれて抜けられる。特別動きが早いわけじゃない。
ただ純粋に動きを見切られているという感覚。
その時、カガリさんは蒼の後ろを指さした。
「え?」
蒼の後ろから迫る魔物に、目が吸い寄せられる。
小さな小さなトカゲだ。だけど噛まれると痛い。血も出るし肉も持っていかれる。
「蒼、後ろ魔物!」
蒼は一直線に飛びかかってきたトカゲを避けた。
「びっくりしたぁ!?」
そして冷静に。
再び飛びかかってくる、小さく狙いにくいトカゲを剣で斬り殺す。
わたし達だって一応教習は受けた。剣を振るコントロールは悪くないって言われたし。球技は得意な方だ。
「ふぅ」
「大丈夫!? 蒼!」
「大丈夫」
蒼は魔石を拾い上げると、全然止める気配のないカガリさんに手を伸ばす。
「あ、蒼、カガリさんのリコーダすごいよね。全然途切れないし……」
「元気そっちから攻めて。囲んで」
「は、はーい」
「絶対止めてやる」
あっ、ちょっとキレてる……。
子供:カガリ兄は一回演奏始めると止まらないからなぁ
こども:初心者ダンジョンばぁーつーで、会話してくれる人がいてよかったね
アキト:かわいそー
お姉さん:大丈夫じゃない? 魔物少ないし
アキト:それより応援だよな。頑張れー!
こども:がんばれー!
子供:カガリ兄も止まってあげれば良いのに
:がんばれー
:そこだっ、いけっ!
:止めれたらスゴイで賞を授与してあげよう
:アキト安心しろ、カガリは優しい子だ
:リコーダーなめてた、涙出る
:いや無理でしょ
:カガリくん素敵です
:二人とも、止めれたら凄いぞ!!
「なんて無駄に洗練された、無駄のない無駄な動き……!?」
「元気、初心者目線で変なこと言ってないでカガリさん止めることに集中して」
「集中しろって言われたって……」
だってすごいんだもの!
掠りもしないしッ!
壁飛ぶし!
………………この人、逃げてばっかだったけど本物の攻略者だ。
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