第4話 初心者ダンジョンvr2 マイペースに飲まれるな
やっとカガリさんの演奏が終わった。
「さて。伝わっただろうか私の言葉がどれだけ本気か」
「「はい!」」
「元気のいい声だ、素晴らしい」
ここで伝わってないなんて答えたら、またリコーダー吹き出しそうだし。………………はぁ。かかなくていい汗かいちゃった。
最後の方は空振りしすぎて凄くない? って感心しちゃったよわたし。でも。
「あおい〜、つかれた〜」
「……私も疲れた」
少し寄りかかると蒼に押し返された。わたしはさっき返しそびれていたハンカチで汗を拭う。この際汗でびしょびしょにしてやろうか。
肩で息をしている蒼からも汗の匂いがする。
わたしは何か踏んづけた感覚に地面を見た。カガリさんが演奏に寄ってきたであろう、魔物の魔石だ。
「ま、実りはあったかな」
じゃりっと砂でも入ったのか、口の中で砂の味がする。
「やっぱり音楽はわたしの心を伝える最大の手段だよね」
アキト:相手初心者さんなんだから、あんまり構ってやるなよ
子供:えー、面白いじゃん
アキト:初々しい感じ?
子供:それもある
:パレードお疲れ様
:おつ〜
:お疲れ
:頑張れ二人ともここを乗り越えれば未来は明るい! たぶん。
:お疲れー!
そういえば、なんでここ二つに分かれてるんだろう。固定されてる訳じゃないみたいだし。こう言う分け方できるんだ…………。変なの。
「このダンジョンが初心者ダンジョンと言われる所以は、魔物の少なさとダンジョンの小ささだよ。初心者ダンジョンと名がついているせいで、人もそれなりだ。結果、人で溢れかえることになる。だから、さっきみたいなとても小さいエリマキトカゲは少し例外だよ」
ぱちっとウィンクされて、むず痒くなる。
これ続くなら、めちゃくちゃウザいそうなんだけど。
わたしはさっき先輩風吹かすことオッケーした記憶が蘇り、顔を顰めてしまう。蒼もどこか難しい顔をしていた。
アキト:ちっちゃかったよなトカゲ
「うん、あそこまで小さい魔物もあまり出会わないはずなんだけど。君たちある意味運がいいね」
「ねぇ、わたしたち煽られてる?」
「素に見えるけど……」
「このアキトって人は?」
「一応、事実しか言ってないし」
「どこかで卵が浮かしたのかな?」
ほんと空気読まないよねこの人。
わたし達あの小さなトカゲしか会ってないのに。あっちの方がレアだったとか……、マジで情報見とくんだった……。
「さあ、進もうか」
なんなら今すぐ階層を駆け上がりたい。今わたし達がどこにいて、階段がどこにあるかは知らないけどっ。
笑顔で歩き出すカガリさんが、どんどん歩いていく。
わたし達がついて行くことを躊躇していると、カガリさん振り返った。
「どうしたの?」
一緒に居たくないなどという言葉は、欠片も脳裏には浮かんでいなさそうだ。
「……まさか、本当に私に惚れてしまったのかな?」
「は? ……ち、違うけど」
戻っていくカガリさんはやれやれと煌めく。なんかちょっとキラキラしてんのなに? 幻覚?
目を擦ってもその煌めきは無くならない。
ただのイケメンフィルターだったか。
「否定したくなる気持ちはわかるよ。安心するといい、私の上品な所作は、人に石化と同じような症状を与えてしまうみたいなんだ」
「いや、だから――」
「行きます。ついていきますから、行きましょう」
ぐいぐいと蒼がカガリさんを押す。
私の幼馴染は変な人と関わってしまったと後悔してそうな顔で、なんとなく扱いがわかってきたらしい。
わたしもマイペースなやつのペースに乗せられたらダメだ、と心を強く持つことにする。
「さっきのトカゲはいるかなぁ?」
うーん、やっぱりこれ、逃げたほうがいいよね。わたし達をあのでっかいトカゲと戦わす気満々なんだけどカガリさん。
ニコニコしている後ろを歩きながら、わたしはこそっと蒼に言う。
「蒼、走ろ?」
「了解」
同じようなことを考えていたのか、即座に帰ってきた言葉にわたしは頷いた。そして、まっすぐ進んでいくカガリさんを見ると、わたし達は横道にダッシュし出した。
ダッ!! と砂が舞い上がる。
先ほど魔物に追われていた時と同じように、わたし達は全力疾走だ。
一応チラッと背後を確認すると、カガリさんがリコーダーを一節吹き鳴らし、カメラと会話しながら、軽く追いかけてきていた。
ゾワリと恐怖が身体を駆け抜けていく。そして。
「きゃああぁーーー!!? 怖い怖い怖い!! 魔物よりこわいーーーっ!」
「こっちは全力で走ってるのにっ、涼しい顔で追いかけて来てるのなんでーッ!?」
身体が一気に熱を持った。
なんでだろう。さっきのトカゲよりも威圧感感じるんだけど!! 空気読めないって最強かよっ!?
わたし達はどっちに行けばいいのかも分からないまま、ちょくちょく視線を交わしながら道を選んでいく。
地上ならバラけるのアリかもしれないけど、ダンジョンではナシだ。
「二人とも待ってよ〜」
わたし達はサソリの形に似た魔物を飛び越え、高低差のある崖に積まれている岩を登り、後ろを振り返る。カガリさんはそこにいた。
「!?」
「きゃぁっ!?」
「え、なに? どうかした?」
『お前だよ!』と蒼と共鳴したであろう言葉は、唾と一緒に飲み込んだ。
「ここの高低差すごいよね」
そう笑顔で言ったカガリさんは、やっぱり息が切れていなかった。
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