第15話  魚のダンジョン 筋肉最高!! その3



 パチャ。

 おや、私に出会うために、魔物がやってきてくれたらしい。


「筋肉さん、サポートをお願いしても?」


 グッと心強く親指を立てられ、私も同じように返した。ギターを〈楽器収納〉へ入れる。


 パチャ。

 長い脚と、ピンク色の翼を持つ鳥が真珠を咥えながら歩いて来た。それを水の流れる小さな滝の後ろに頭を突っ込んで置く。

 場所が気に入らなかったのか、また頭を突っ込み出した。

 好都合だ。やるよっ。私の美しい拳で屠られることを光栄に思うと良い。…………これは少々傲慢な考えかも。


 頭を振ると、私は緊張の面持ちで拳を構える。

 楽器は〈楽器収納〉へ入れたから、ミスをしても壊れる心配はない。魔物が私たちを見ていないうちにっ。


「……んーっ!?」


 拳が魔物の胴体に当たる直前で、足元がもつれ、空振りしては魔物にぶつかる。そして、私にタックルされた魔物が飛び上がり、私はよろけた先でまた足がもつれ、コロコロコロ。

 バシャーーッンと、顔面から行くことを逃れながらも、身体はびしょ濡れだ。水の香りを感じる地面から顔を上げる。


 さすがに魔物も気づいていた。敵意のある瞳は私を見据え、のったりと鋭い爪のある足が振り上げている。


「させんっ」


 私が避けようとしたそこへ、筋肉さんが割り込んできた。余裕と時間があるにもかかわらず、彼は自ら強烈な蹴りを放とうとしている魔物の攻撃を受けにいった。

 ギィンッ!!


 とてもおかしな音がしたね。

 腕で受け止めた音ではないと耳は判断するも、目の前にいる筋肉さんは、武器どころか頑丈そうな防具すらもつけていない。

 魔物は弾かれるように後ろへ。そして。


「筋肉最高っ!!」


 筋肉さんは振りかぶった腕を、思い切り振り抜く。


「グェッ!?」


 拳は魔物の胴体を貫通し、黒霧となって霧散する。バチャッとドロップ品が地面に落ちた。

 素晴らしいっ! あの力強い拳は、私には真似できないかもしれないね。


 アキト:あぁ

 お姉さん:ちょっとカガリ大丈夫なの!?


 :脳筋、だが強いッ

 :カガリくん大丈夫ですか?

 :筋肉は沈むけど強いww

 :草

 :濡れてるカガリくん美しいっ

 :転ぶんかーいっw


 私がその肉体美に惚れ惚れしていると、筋肉さんは白い歯を見せて笑う。そして、ムキッとその鍛え上げられた筋肉を見せびらかしてきた。


「どうだい、この筋肉密度! 最高に美しいだろう!」

「エクセレント! 素晴らしいっ。君の筋肉愛に称賛と拍手を送ろう!」


 少しついた砂を水で落とし、〈楽器収納〉へ入れていたギターを取り出しては、奏でだす。

 私の賞賛を送る一番の表現は、言葉ではなく音楽だ。全てのパーツが美しさのパワーで満ちている。


 お姉さん:まぁ、カガリが楽しそうでなによりだわ

 アキト:だな


 :二人してテンション高ぇーー!!!

 :カガリくんが無事でよかったです

 :褒めてるーって感じの音楽だ。伝わるってすごい

 :草ww

 :余裕があるとやっぱダメか。

 :キャリーされてる二人の目が死んでるww




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