帰艦

さて帰るか、と駐機場へ案内を受ける。



「ご案内します」


「二等曹であるか。ゴクロー」


マリンちゃん一人しか就かないのか。

格納庫に向け歩く間、例によって眼前は尻である。


マリンちゃんもあの映像みたんやろなぁ・・・ツライ!


「司令室にて”全宇宙の悲劇を背負う”などとうそぶく恥ずかしい女の映像を見る機会を得た。・・・うすら寒い時代だとはおもわんかね、二等曹」


思わず言い訳をするように話しかけてしまった。

ハジの上塗りじゃよ・・・


「ご覧になった映像については推察致しかねますが。中尉殿・・・いえ、殿下。私は兄が言っていたことを思い出したのです」


「聞かせてくれ」


「おまえの為だ、国の為だと私が言おうとそこには只ひたすらにわたしの都合があるだけだ、と」


二等僧が踵を返し、あたしと正対する。

やっぱ復讐すんの?!?!


「卑怯者達が俺たちの死をどれ程蔑もうと、又は美辞麗句で飾り立てようと・・・そして宇宙へどれ程に甘美な生贄を掲げようと、お前は決して追従してはならない。・・・それが兄が残した最後の言葉です」


うーむ、身に摘まされる。


「我が姿は甘美ではなかったか」


二等曹の顔に涼やかな笑みが広がる。


「我々卑怯な者達の蒙を吹き払い、血を流しながらも偽善欺瞞に満ちた宇宙への痛烈なる皮肉。爽快でありました」


前々世で読んだアーティストのインタビュー、ファンの感想への戸惑いを綴ったモノを思い出した。


まりんちゃんの目に映っているのはダレなの?


振り返り案内を再開するマリンちゃんの背中に心で問いかける。


甲板に出ると、着いた時と変わらずに着座するデーヴに乗り込み、係留を解かれると発進する。


遠ざかってゆくヴァルナを振り返り、甲板に敬礼を続ける二等曹を見止める。



「偶像・・・あたしにも、いたな。ナイチンゲールとか」



腐った世の中を金と権力で吹き散らして新たなる秩序を齎した剛腕の天使。


人の為という偽りの満足では自分すら救うことは出来ないのだ。



『ハマミ中尉、無事か』



いつの間にかマシュー先輩のゾカ・ネストが寄り添うように並進していた。

・・・リーゼサンジュッキとやらはもう片付けてしまったのだろうか?


「ハイ、大尉殿。無事であります・・・よろしかったのですか?」


戦果と、姉君への思いは?などと、自分の痴態を見ているであろう相手に口に出せる筈もなく。




『そうか、帰るぞ。・・・使者の回収を完了。これより帰投する』


マシュー先輩にはどのような偶像に映ったのだろうか。


『B了解』


ルフィの応答だ。

・・・なぜか不倫の現場を見られたような後ろめたさにどきどきしてしまった。


『・・・Aは、ジュリアン!中尉!』


ジュリアンて・・・ああ、絶世の美男子なのになぜか気の置けない付き合いの出来る謎物件だったっけ。居たのか・・・


『アルファりょーかい!寝てたは』


「はー、ジュリアンも来てたんだ」


作戦中なのに思わずぺらりと私語が出てしまう・・・


『なんだよ、ブリーフィングいただろ』


「マシューせんぱいと見つめ合って忘れちゃったわー・・・それより親書!あたし殺せとか書いてあったんだけど!ひどくない!?」


『ああ、あるかもな~とは思ってたけど?つか俺なんて脱糞写真撮られてソレネタにおまえ生還の協力を脅迫されたんだけど・・・こっちのが悲惨だろ』


冷たい、と突っ込む間もなく聞き逃せない情報にくらりと気が遠のく。


脱ッぷ・・・排泄行為中の姿を・・・え?あたしは兎も角、脅迫に足るどんな需要があんのよソレ・・・


「ええ・・・すごいソソる・・・」


『督戦部のやつらがもってるから言やあ見せてくれんじゃね』


督戦部・・・みりぽの総本山だっけ。ツテがないんよ・・・


「おもろかったらエンリカにも送ろっと」


『あえて止めん』


あいかわらず自分の美しさには何の執着心も無いのね。




どうすればあなたみたいに生きられるのかしら。

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