作戦「愉快な仲間たち」

コクピットに入り、シートに身を沈める。


一瞬、血の匂いで咽せ戻しそうになるが、幻覚だと強く念じ、堪える。


股の間から流れるのとは違う、濃く甘い芳香。


視界の端から絶えずこちらを覗くヤマダ整備主任のうつろに乾いた目に、おとうさん、あたしを守ってね・・・などと筋違いなあおりを念じ()ながらエンジンを掛ける。



股の間に迫り上がるメインディスプレイパネルで兵装の確認。


オールフェイル。ま、そりゃそーだ。


シートとこのパネルジツは要らないは大きな死角になるんだけど、無けりゃそれで不安なのよね~。



自爆シーケンスのロックも確認。



うーん、ほんとに使者やんのかよ。


前大戦で自爆攻撃に殉じた兵士達を思う。



今のあたしくらいの年齢だよな。



「わかんないわね」



三度目の人生の、軽い命の身で・・・



「ハマミ中尉、親書です」



「んー、投げて」



「もう、しっかりお受け取りください」



おっといかん遺憾、親書つっても陛下のじゃないんだった。

ダナーンズの実行部隊トップ、バショク大佐殿直筆署名やぞ!


・・・あれ?いや、おk。


全身をのばし、こちらに親書だという筒を差し出してくるクールな美女。


うーん、美しい肢体じゃ。


ダナーンズの制服はエロくてとてもいい。下乳に吸い付くようにフィットしている詰襟ジャケが秀逸だ。



受け取りつつ、たわわなその片乳に空いた手をのばすがすげなく遮られてしまった。



「エンリカ中尉の代わりはごめんですよ」



ニヤリと笑い、去ってゆく。



なんかみんなやさしいな。


憐れみ系の孤立感を喚起されるヤツじゃなくて、目に明るい好意を感じる。



何故だ?


あたしの知らないところで、何かが進行している。


バースデーパーティー?



「ディーヴ2番機、ハマミ中尉。発艦せよ」



「2番ハマミ、了解」



ハッチを閉じる。


パイロットスーツの四肢が機体に知覚接続される。



肉体的にも精神的にも侵襲なくレイテンシ0で脳に繋ぐこともできるが、ドライバビリティがセンシティブかつピーキーになるので『四肢を使いリーゼを背負って動いている』、という感覚を残すらしい。



何を言ってるかわかんないしあたしもどうでもいいw



おそらく男子系虚構世界のメカ的に必須な演出機構なのだろう。


前々世のバイクについてたVブースト(外せ)みたいな系の・・・



がっちゃがっちゃと歩いて射出機に立つと、自然と前傾姿勢になりロケットブースターがアイドルしカカトから頭のてっぺんまで何かに固定された感じになる。



「2番ハマミ、発艦体制よし。発艦」



ブースターの点火と共にどーん、とGが掛り宇宙空間に放り出される。



ヤマダ重力推進により光速の数倍距離/時間であっつーまに警戒空域へ到達する。


ヤマダ重粒子砲の差し合いが可能になる距離。


粒子砲弾はガンナーから目視されている限り誘導され必ず当たるので変則的な高速機動で振り切るかヤマダ粒子ビーム剣で叩き落とさねばならない。



実戦じゃ被弾の恐怖に真っすぐ弾道に沿って逃げての直撃が最多らしい。


オートパイロット系に回避行動も組まれているのでハナクソでもほじってれば指が深く刺さらない程度の機動で自動的に回避してくれまず直撃弾は無いらしいのだが、パニックに抗えず動物的本能により逃走し人生を終える新兵は後を絶たないのだとか。



「そろそろね・・・」



装甲のモードを停戦信号へ切り替え、発光させる。



まぁ、前大戦の戦闘シミュレーションであれだけ仮想ナミエ大佐に撃墜されまくればさもありなんて感じよね~。


アラートと同時に撃墜されるし。



俯瞰視点だと、ほんとアニメや漫画のようにあっさり撃墜されてゆく。


いや、虚構世界どっちかなんだろうけど。



今回と同じ戦力比で、ボードマップから次々と味方の輝点が消えて行くのだ。



映像屋のダニーは再現映像をみながら「こいつはカメラを意識しながら戦ってるのか?」と笑いつつ戦記物風に編集したら本人に大ウケして最大の感謝を受けたらしい。


泣きながら「これでこいつらの関係者を探し出せる」と言われたということだ。


ホラーだよ・・・ウワサではその後ナミエ大佐は遺族へ追い打ちの旅に出ているということだが、強力な情報隠蔽が敷かれており真偽へのアクセスはタブーとされている。



前々世でも「ほらwwコレおまえが空けてくれた穴www」つって笑いながらヘルメットを対戦国の兵士に見せてるエースの親善()映像があったが・・・



警戒音。



うは、もう敵艦みえるし。


ブースターを慌てて切る。


なんで撃ってこない?ラッキーだけどさw


停戦や救難を発信しながら突っ込んでくるなんて常とう手段だろうに。



2機の敵性リーゼが発艦、あたしの左右に就く。


通信コール。


応答。



「こちらヴェーダ。誘導に従え」



「こちらダナーンズ。了解」



はれ?誰何も職質もなくご案内??


ひょっとしてなんかハナシすでについてたりすんの?



巡洋艦おふねが近づいてくる。


みたことない船体ねー・・・航空巡洋艦て感じかしら。



コントロールは渡さなくていいのかな、などと疑問しながら左右のリーゼに誘導され左舷甲板へ着艦。




コクピットから降りる。

赤いパイロットスーツの男に迎えられる。



「ようこそヴァルナへ。ハマミ中尉」



「カオもみえないのによく判りますね、ギルベルト大佐」



初キッスのイケオジ、旧公国軍エースが何故?



「大尉だよ。今はクロードと名乗っている。中尉がくることは予感があった」



「フフ、心は雲のよう自由気ままに河岸を変え・・・というところでしょうか」



「連邦にはゆけんが、ね。公国軍解体後は根無し草だよ」



「わたくしの騎士になってくださるとおもってましたのに」



大尉の案内で甲板を歩いてゆく。


敗戦直後のパーチーんときとあんま視点がかわらんのだが・・・いや、さすがにソレはないだろう。大尉がデカくなったのだきっと。



「おや、振られたのではなかったのかな?私は」



「あのとき頂いたキスより、想わぬ夜はありませんでしたのよ?」



「それは惜しいことをした。しかし、きみを姫として独占するに私の力は及ばなかった。今回もそれを痛感したよ」



なんだろう・・・今回、てこの作戦のこと?


やられっぱのリカバリ作戦じゃん。皮肉か?



「食材・・・贖罪の羊に騎士はいりませんものね、贄の儀式後は頸られ饗され、骨の一片に至るまで憎悪を受けきって果てるこの身とあらば・・・でも最近、分不相応にも不思議な人の温かさを感じるのです」



「おや・・・ひょっとして中尉は広域マスコミュビジョンは見ないのか?」



「いえ、いくつかのチャンネルに知り合いが居りますので、家や大戦に関わる映像は直接取り寄せ常日頃チェックしておりますわ」



「なるほどそれではパパラッチなどは・・・っと、ここから検疫だ。では、な」







は?パパラ??


食べもんだろか。



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