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「かあさん、寒いよ」
ボロのマントをキツく掻き合わせ、あたしを見上げる息子氏。
ごめん・・・ダンナ(新)似に生んでほんとゴメン!
「そう・・・おかあさんのマントにお入り」
やった、と笑うブ男顔が愛くるしすぎて疲れも寒さも空腹も全てが吹き荒ぶ雪片の彼方へと消えてゆく。
息子のぬくもりが唯々ひたすらにいとしく、夜泣きや野獣行動、徘徊行方不明破壊工作汚染系バイオテロによるイライラと諦観、殺意と自己嫌悪のジェットコースターから解放されこれからは自動的にどんどん頼もしく成長してゆく息子を鑑賞しながらこの幸せが大きく膨らんでいくだけなのだという幸福感をかみしめ・・・
「馬の鳴き声が聞こえたね」
「マジでっ?!」
こんな吹雪く夜に馬走らせるとかムリだし、絶対機械化奴だろ。
逃げますか?
はい
いいえ
>機械化奴とは?
自らのフィジカルを苛酷な労働や趣味的な享楽に耐える仕様に強化するため、脳や身体を電子化・機械化した人間。小金持ちあたりから可能。
「伏せて」
マントから首を出し不用心に周囲を探る息子氏を雪に押し付けつつしゃがみ込む。
もうかなり遠くなった日雇い現場(肉体系託児所無し)の町明かりをたよりに目をこらすと、趣味的であまり意味のないメカメカしいテクスチャにデコレートされた騎士然て感じの機械化奴が三体ほど、吹き荒ぶ雪片と巻き上がる粉雪の向こうに見えた。
なんで見えるか、て?
七色にピカピカ光ってっからな。前世でいうゲーミング仕様てやつ?
「サーベルとライフル・・・どうやら狩りにでも興じてるみたいね」
「こんな雪の中なにを狩るのかなあ」
「あたし達よ・・・走って!」
いや、もう隠れたり逃げ込んだりする当てもないんですけどね。
人間てこういう危機的状況だとその場に居竦むか飛び出すかの二択になるていうけど、あたしは後者だったらしい。
まぁ飛び出して生き残ってきた系の末裔て感じ?
恐怖に催されたのか頬が僅かな笑みに引き攣った瞬間、全身が爆裂したかのような衝撃をうけ、たぶん空中へと飛び上がり回転しながら雪の中へと頭からつっこんだ・・・んだと思う。
「かあさん!」
息子氏の呼び声に、古い蛍光灯のように明滅していた意識が沸騰したように覚醒する。
「
再びの衝撃と共に視界が回転し、その端に息子氏が吹っ飛ばされていくのが見える。
「カッ・・・ゥッ」
息子氏の名前を叫ぶが、声にならない。
強い耳鳴りに野卑な男の哄笑が重なる。
「ガハハハッ!二匹とも俺のタマだッ!」
「さすがは伯爵」
「見事な業前に御座いますな」
全身に剣山を叩きつけられているような激痛にままならない体を押して息子氏へと向かおうとするが、冷たく大きな手にアゴを掴まれ宙づりにされる。
「ほう、女か」
襤褸をめくられ、衣服を剥かれ、吹雪く寒風に邪魔でクッソ長い髪が空中へとぶちまけられる。うごごご・・・頭の皮が剥がれる!!
「美しいではないか!これはみごとな剥製になるぞ」
アタマや服だけじゃなく全身の皮を剥がされるらしいwww
「伯爵、こっちの小さいのはサルのようです」
息子氏!つか、猿とか言うな!!言っていいのはアタシだけじゃ!
「捨て置けい!それより今日は地球産のワインを開けねばならぬな」
「ほぉお・・・終にあのコレクションに手をつけるのですか」
「これは是が非にでも相伴に与らねば」
馬を進め始めたのか、息子氏が遠ざかっていく。
クッソ、なんとか救難を要請しなきゃ!
焦るが頸を掴まれ意味にならない唸りが歯の隙間から零れるだけだ。
「む、獲物が苦悶しておりますぞ」
「おっといかんな。別荘までは保たせんと」
襤褸と衣服を雑に巻きなおされ、鞍の前に抱えられてアゴが自由になると、息をつくのも惜しんで叫ぶ。
「伯爵風情が身の程をわきまえよッ!」
?!?!??!!!!
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