day18.蚊取り線香
実家から仕送りの段ボールが届いた。
開けてみると、畑で採れた夏野菜と日用品が少々。野菜はともかく、粉の洗濯洗剤なんて却って使いづらい、と有り難さと困惑が綯い交ぜになりながらひとつひとつ箱の中身を確認していく。あらかた入っていたものを出したところで、底の方から蚊取り線香の缶が出てきた。
これも、正直なところマンションでは使いづらい。火災報知器がなりそうだし、いつ何かの拍子に火事になるかとひやひやしながら使うくらいなら、電池式の虫除けを買ってきた方がいい。そもそもここに越してきてから、蚊というものを見たことがない。
これを詰めたのは祖母だろう。優しくて気遣いのできるひとなのだが、何というか、ときどきちょっと抜けているところがある。
せっかくだから一回くらい使ってみるか、と缶を開け蓋を線香皿にして、網戸だけにした窓辺に設置する。
すぐに部屋中に、懐かしい匂いが充満する。子どもの頃実家の庭で、蚊取り線香を焚きながら姉と花火をしたことを思い出す。
蚊取り線香や花火用の蝋燭に火を点けるのは祖父の役目だったな、と思い出に浸っていると、部屋の隅の方でどさっ、と何か重いものが高いところから落ちた音がした。
ざっと床の上を改めるが、目立った変化はない。天井には電灯しか吊り下げてないし、地震が怖いので背の高い棚もない。あんな落下音が出るような高さに、物など置いていない。
部屋中を調べているとまた、ぼどっ、と先ほどより重いものが落下した音が響いた。下の階から苦情が来なければいいな、と考えながら音がしたあたりを足先で探ってみる。爪先が何度か空を切ったところで、さらにべちゃ、と今度は背後から粘着質な音が耳に届いた。
──今時の蚊取り線香は、蚊以外にも効くのだろうか。ともかく、明日いつもより念入りに床の掃除をしようと誓った。
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