day10.散った


 夜中、急にアイスが食べたくなったが買い置きがなかったので、最寄りのコンビニへ行った。

 普段はそれなりに人通りのある道だが、時間帯のせいかカナメ以外誰もいない。街灯も多いし、まだ灯りが点いている家も多いのであまり怖い感じはなく、特に急ぐでもなくゆっくり歩く。

 この辺りはガーデニングに力を入れている家が多い。歩道まで色鮮やかな花やつやつやした葉を付けた枝が溢れて、日中はよく通行人の肩先を撫でている。

 暗い中一際目立つ白い花を付けた木が、道路側に大きく張り出していた。邪魔だ、と言う人もいそうだが、カナメは素直に綺麗だな、と思う。

 近寄ってよく見てみると、夏椿だった。立ち止まって眺めていると、ぽとり、とアスファルトの上に一輪まるごと散ってしまった。

「あ、散っちゃった」

「椿はね」

 耳元で声がした。驚いて、何かを振り払うように体ごと振り返る。

 少し離れた路上に、死装束のような白い着物を着た女が立っていた。長く垂らした髪まで真っ白だが、顔を見るとまだ若そうである。

「椿は『散った』ではなく、『落ちた』と言うのよ」

 女がにやりと嗤う。その嗤い顔のまま、ぽとり、と首が落ちた。まるで静かに、花が落ちるように。

 落ちてもなお、ふふふと声を上げ続ける首を残して、カナメは一目散に逃げ出した。

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