day9.ぱちぱち
「えー! シェイクとソーダどっちにする?」
いつもの三人組で、駅前のカフェに来ている。今日から夏の特別メニューが始まるからと、流行り物が好きなチヒロの発案で、大学帰りにみんなで寄り道することになったのだ。
新作とか流行とかにあまり興味がないカナメは、それが桃を使った飲み物だとは知らなかった。あんな夢を見た後では桃を口にするのは気が引けたけど、一人だけ違うものを頼むのも付き合いが悪いように思われて、仕方なくソーダの方を選ぶ。どろどろの、ピンク色をした液体を飲む気には今日はなれなかった。
グラスの底には細かく切られた果肉が沈んでいる。上にはたっぷりと真っ白なクリームがトッピングされており、ソーダだからといってカロリーが低いわけではなさそうだ。
太いストローで中身をかき回し、少し濁った液体を吸い上げる。口の中でぱちぱちと炭酸が弾ける感覚に、雷が宿った桃、の話を思い出した。そんなものが実際にあったら、きっとこんな感じなのだろう。
あの翌朝、母に桃のことを尋ねてみたら、「何のこと?」ときょとんと聞き返されてしまった。嘘をついたり誤魔化したりしている様子ではなく、本当に何も知らないようで、夜中のあれは夢だったのではないかと思った。だが、庭に出てみたら現実だったんだぞ、と言わんばかりに桃の樹の下に、掘り返した跡と赤い染みが点々と残っていた。結局、それは怪我をした野良犬の仕業ということになったけれど。
強めに吸い込むと、果肉が口に飛び込んでくる。細切れの桃は冷凍物らしく、上にたっぷりと乗ったクリームとの対比で余計に酸っぱく感じる。
そういえば。ぱちぱちした炭酸と桃の酸味で脳が刺激され、奥底にしまっていた知識が転がり出る。人間の肉は酸っぱいって、何の本で読んだんだっけ。
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