第八話 騒々しい一日の終わり

 布団に入った優維人は、今日一日のことを考えていた。

 夏休みの一日目だが、とんでもなく濃厚な一日だった。見ず知らずの少女が家を突如尋ねてきて、護衛としばらくの間の世話を優維人に依頼。こんな濃密な日、人生でもなかなか無い。

 そして、その護衛なのだが、特に問題なく平和に一日が過ぎた。

 特に怪しい人間の影すらない。一日中気を張り巡らせていた優維人としては拍子抜けである。まあ、平和は良いことなのだが。

「……あの子、謎が多いんだよな」

 優維人が呟いた通り、透華には色々と謎が多すぎる。日中、優維人は彼女と連絡先を交換しようとスマートフォンを取り出したのだが、透華は「スマートフォンって何?」と返してきたのだ。その言葉に優維人は強烈な衝撃を受けた。

 現代社会において、スマートフォンは必須のアイテム。今時先住民でも使用している。それなのに透華は持っていないどころか、スマートフォン自体の存在を知らなかったのだ。

 保護者の叔父は厳しいところがあるようだが、いくらなんでもこれは異常だ。浮世離れにもしても限度がある。

 これではまるで、彼女がどのような生活を送ってきたのか、優維人は気になって仕方がない。

 謎はまだある。

 透華を狙う存在だ。優維人は彼女に何度も尋ねたが、「言えない」との一点張り。何故自分を狙う存在のことを隠すだろうか。守ってもらうため、普通は可能な限り情報を共有するはず。

 それに依頼の流れも妙だ。

 依頼の手紙を書いた小川ゆう子という人物であり、彼女のことを透華は自分の使用人と言っていた。透華の護衛なら、本来叔父本人が依頼するはず。何故使用人を介して依頼してきたのか。それに護衛なら、優維人一人ではなく、他にも大勢のCRAを雇うべきだ。それとも優維人とは別に警察やCRAに依頼して、透華を狙う犯罪者達を捜査しているのだろうか。

 何にしろ不明点が多すぎる。護衛する優維人の立場としては、透華周辺の事情をある程度知っておく必要がある。

 明日は小川ゆう子の親戚である野村雅子まさこに会いに行く。すでに約束は取り付けている。

「ニャー」

 クロが前足で部屋の襖を器用に開け、優維人の部屋に入ってきた。クロは優維人の枕の上で丸くなり、尻を優維人の顔に密着させる。優維人が頭を撫でてやると、ゴロゴロと上機嫌に喉を鳴らした。

 この場で考えを巡らせても意味がない。明日に備えてもう寝よう。

 優維人は目を閉じると、あっさりと眠りに落ちる。

 多くの謎を抱えながら、優維人の夏休み初日が終わった。

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鬼と銀色の姫君 河野守 @watatama

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