第二話 少女の来訪

 苗木署から自宅に戻ってきた優維人ゆいとは、玄関の前に小さな箱があることに気がついた。

 覗き込んでみると立派なスイカが入っており、スイカの上には書き置きが置いてあった。優維人は書き置きを開き、内容を確認。

『実家から送られてきたスイカだよーん。普段お世話になってる優くんにお裾分け。夕焼け荘のアイドル、あおいちゃんより』

「碧さんか」

 元々黒崎家は小さな農家をしていたが、祖母が若い頃に畑の大部分を埋め立て、夕焼ゆうやけ荘という賃貸物件を建てた。夕焼け荘は平屋建てであり、五つの家が連なった形状をしている。その二号室に住んでいるのが、堂本どうもと碧。現在大学三年生の彼女は酒癖は悪いが、何かと世話焼きであり、よく優維人にお裾分けをくれる。

「あとでお礼を言っておくか」

 玄関の鍵を開け家の中に入ると、ニャーという鳴き声。玄関マットの上には一匹の黒猫がちょこんと座っており、優維人を見上げてた。

「ただいま、クロ」

 優維人が顎を撫でてやると、クロは気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らす。

 優維人とこの黒猫と出会ったのはちょうど一年前。ある雨の日に、玄関の前でずぶ濡れで鳴いていた。不憫に思った優維人が一度餌をあげたのだが、それ以来毎日来るように。当時の優維人がの一人暮らしに寂しさを感じていたこともあり、家猫として向かい入れた。

「まずは着替えるか」

 後ろを健気なに歩くクロを連れ、優維人は自室へと向かう。高校の制服から私服に着替えた後、書庫に入り先ほど受け取った書類のコピーをファイリング。

「じゃあ、そろそろ昼飯にするか」

「ニャー!」

 昼飯を食べた後、優維人は仕事の依頼がないか確認したり、スマホゲームに興じたりする。そのように過ごしていると、あっという間に今日一日が終わり、優維人はクロと共に眠りに就いた。



 優維人は首に何かが当たる感覚で目覚めた。確認すると、クロが頭を擦り付けていた。いつもの餌のおねだりかと思ったが、どうも違う。クロは優維人が起きたのを確認すると、玄関の方をじっと見つめる。これは来訪者に気づいた時によくやる仕草だ。

 優維人は枕元に置いておいたスマートフォンを確認。現在時刻は午前六時を回ったばかり。

「とにかく確認に行くか」

 優維人は目を擦りながら、玄関へと向かう。

 引き戸である玄関の扉には曇りガラスが貼られており、うっすらと人影が見える。

 こんな朝早くに誰だ? 賃貸の住人か? いや、碧さんは昼までいつもぐうたら寝ているし、紫苑しおんさんは滅多に尋ねてこない。速見はやみさんは取材で中東にいるはず。

 優維人は早朝の訪問者に警戒しながら、扉をゆっくりと開けた。

 扉の前に立っていたのは、一人の少女。

「初めまして、黒崎さん。不束者ですが、今日からお世話になります」

 見たこともない美しい少女はそう言い、優維人に笑顔を向けた。

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