第4話 失敗続きの婚活

 皇国の貴族法では、当主が亡くなって四ヶ月以内に次の当主の登録手続をしなくてはならない。そうしないと、国が親族の中から後継者を指定するか、爵位を取り上げられてしまう。

 貴族に未練はないけれと、男爵位を給わってから得た顧客もあり、あるのとないのとでは信用に関わる。

 何より父が遺してくれたものを、リリーシュは守りたかった。

 父が亡くなって既に三ヶ月。葬儀から二か月は喪中だったため、実質彼女が婚活に取り組みだしたのは、まだ一ヶ月程だ。

 だがいざ始めると、これがなかなか難しかった。

 代々の貴族は、新興の男爵位の娘となど特別親しくしたいとは思わず、平民の者たちは変に爵位があることこで、遠慮がちになる。

 学園にいる時も授業と商会の仕事で手一杯で、ろくに社交というものをしてこなかったこともあり、まず、招待状を獲得するのが困難だった。

 それに、誰が流したかリリーシュが、我儘でお金があることを鼻にかける高慢で、お金に汚いという噂が広がっていて、運良く夜会に参加できても、誰もリリーシュを相手にしてくれない。


「年頃の男性は、大抵結婚しているか、相手が決まっているし、三年の間に死ぬかも知れない高齢の方はだめだし、父くらいの年齢の人は、妻に従うのを嫌がるし…一応誰でもいいと言っても伯母たちの言いなりになる人は…あ、裏切らない誠実な人って項目も条件に入れた方がいいかしら」

「これまで社交をされてこなかったのもそうですが、誰も導いてくれる人がいないなら、確かに難しいでしょうね」

「仕事の話ならいくらでもできるのに、それ以外は何を話せばいいのか…気の利いたことがまったく思い浮かばなくて、会話が続かないんです」


 この一ヶ月、何とか伝手を頼って夜会に出たものの、壁の花で終わってしまうことが殆どだった。

 話しかけようとしても、相手にされないことも多かった。

 運良く話ができても、彼らが喜ぶような話ができない。

 期限は刻一刻と迫る。

 万策尽きて、リリーシュはここに来たのだった。


「一番の問題は、私に女性としての魅力がないからなんですけどね。学園にいる間も、誰からもパートナーに誘われませんでしたし、だからこうしてお金の力を使うしかなくて」

「あなたに、女性としての魅力がない?」


 ボウがリリーシュに問い返した。


「はい。父や母は、私のことをかわいいと言ってくれましたが、それは親だからだってことはわかっています。いとこも昔から私のことをブスと言って、苛めてきました」

「……いとこ殿が……ね」

「それだけではありません。昔、別の子にも、『ちっとも可愛くない』って言われたことがあります」


 リリーシュはまるで自慢のように、力強く言った。


「それは、どなたに言われたのですか?」

「どなた……?」


 リリーシュは記憶を探る。あれはいつ、誰にいわれたのだったか。


「あれ? 誰だったかな…? 昔、うんと小さい頃、父が仕事で誰かに会うと言って、私と同じ年頃の子がいるからと一緒に馬車でどこかへ出かけて…そこで会ったとても可愛い女の子……だったような」

「覚えていらっしゃらないのですか?」

「すみません。その日の帰りに熱を出して、その日のことをあまり覚えていないのです。とてもショックを受けた記憶しか…」

「そうですか。それは辛いことを思い出させてしまいましたね」

「あ、いえいえ、別にギルド長のせいでは…」


 なぜかギルド長が申し訳なさそうに言うので、かえってリリーシュが恐縮する。


「ですが、私から見ればマキャベリ様は、十分魅力的な女性ですよ」

「昔から、おじさんたちには受けがいいんです」


 父の仕事仲間からは、可愛がってもらっていた。


「私はですか?」


 ハハハと、ボウが苦笑いする。


「あ、別にあたながそうとは……す、すみません、こんなところが駄目なんですね」


 自分の失言に、リリーシュはシュンと項垂れる。


「じょ、冗談ですよ。私はあなたのお父上くらいの年齢ですから、おじさんで合っています」


 にこやかに言われ、怒っていない様子にリリーシュはほっと胸を撫で下ろす。


「でも恋愛対象となると、やっぱり私は及びでないようです。恋愛より勉強や父との研究が楽しかったのもありましたから、自業自得みたいなところもありますね」

「マキャベリ様の年齢ですと、在学中はちょうどフェリクス第三王子殿下や、ロードバルト王弟殿下とご一緒だったのではないですか? 他にも王族方の側近候補のご令息など、見目麗しい方々がたくさんいらっしゃったと思いますが、どなたかと言う方は?」


 急に王族方の話になり驚いた。

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