第2話 ギルドへの依頼

依頼の種類「人探し」

依頼の内容「夫」

期日「一ヶ月以内」

報酬「要相談 上限なし」

その他「性別 男」「年齢 成人年齢以上」「条件  妻に文句を言わないおおらかで、細かくない人 料理、洗濯、掃除、裁縫がひと通りできる人 残りは面談による 容姿 特に要望はなし 身分 犯罪者でなければ問わない」


 リリーシュが記載した内容に、アマンダは目を丸くする。


「あの、マキャベリ様…確かこの前ご当主が亡くなられて、お嬢様は独身とお聞きしておりますが」

「はい、そうです」

「人探しで…旦那様を…というのは?」

「見てのとおりです。私は夫を探したい。それも一ヶ月以内に」

「……夫を…探す」

「無理…ですか? 人探しも情報ギルドの仕事のひとつなんですよね」


 困惑するアマンダを見て、ここも期待できないのかとリリーシュは落胆する。


「お願いします。ここが最後の頼みの綱なんです。お金ならあります。ご存知でしょ、マキャベリ商会を。あの商会は私の父が起こした商会で、私も今はそこの商品開発担当をして、そこそこお金を持っています」

「お、落ち着いてください、お客様」


 ここで断られたら、どうすればいいのかわからないという焦りが、つい彼女の声を大きくした。

 アマンダに言われ、ハッと周囲を見回すと、その場にいた全員がリリーシュに注目していた。


「……と、とにかく、お願いします。本当にお金はある程度用意できますから」


 アマンダにだけ聞こえるような小声で、リリーシュは頼んだ。


「アマンダ、どうした?」


 そこへ、騒ぎを聞いたのか、奥からモノクルメガネを掛け、短い髪を後ろに撫で付け、ビシッとしたスーツを着た、アマンダより少し年配の男性が出てきた。


「ギルド長」


 アマンダは立ち上がって、その人物にお辞儀する。


「私はギルド『ふくろう』のギルド長でエメリック・ボウと申します。話は少し聞こえました。書類を見せていただけますか?」


 彼はアマンダとリリーシュを交互に見てから、受付カウンターにある書類に視線を向け、依頼書を取り上げ、ざっと目を通した。


「なるほど…」


 書いてある内容に、彼は納得したように頷く。


「あの、だめ…ですか? 私の依頼はギルドが取り扱う案件には当て嵌まらないのですか?」


 無理だと言われるのではと、リリーシュは不安にかられ質問した。


「そんなことはありません。ですが、引き受けるからには、少々お時間をいただければと思います」 

「その時間が、私にはないんです。そこに書いてありますよね、期限は一ヶ月しかないんです」

「確か、お父上が亡くなったのは三ヶ月前ですね」

「はい」

「貴族法では後一ヶ月で、家督継承の手続きをしなくてはなりませんね」

「よくご存知ですね」


 リリーシュがなぜひと月以内に夫を見つけなければならないか、彼は即座に察したようだ。


「仕事柄、国の法律は熟知しております。ギルドの法務担当でもありますから」

「流石です」


 頭のキレる人だ。こんな人が長なら、ここは信用できる。これまでの取引でも、こちらの期待に応えてくれていたが、やはりここに来たのは間違いではなかった。


「しかし、ここにこのような依頼を持ち込まれるとは…よろしければ、ご事情をお伺いしても?」

 

 ギルド長は、受付の奥へと手を伸ばす。奥へ来いと促しているのだ。


「話せば…引き受けてくれるのですか?」

「王都…いえ国一番の規模と実績を誇る我がギルドの、維持と栄誉に替えても」


 ギルド長は、胸に手を当て丁寧にお辞儀した。 

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