完璧な理想の旦那様を募集します 溺愛は条件に入れていませんが
七夜かなた【10月1日新作電子書籍配信】
第1話 ギルド ふくろう
「ここね…」
リリーシュは、とある建物の前に立ち、看板を確認した。
「ギルド ふくろう」
看板にはそう書いてあった。看板の上には、木彫りのふくろうが飾られ、じっとこちら見ている。
これまで書類などでやり取りはしていたが、直接ここへ来るのは初めてだった。
「ここで見つからなかったら…どうしよう」
不安が彼女の胸に広がる。しかし、ここ以外頼れる所はもうない。
意を決して、彼女は扉を開けた。
中に入ると、そこは広いエントランスホールになっていて、片側には大きな掲示板があり、そこにはたくさんの張り紙がされている。
その掲示板の前では、何人かがその張り紙を吟味している。
反対側には、テーブルや椅子が置かれていて、ちょっとした喫茶スペースになっている。
「いらっしゃいませ、ようこそ『ギルド ふくろう』へ」
リリーシュは真っ直ぐに、中央奥にある受付へと向かう。
彼女が近づいてきたのに気づき、受付に座っていた三十代くらいの女性が、にこやかに声をかけてきた。
「……あ…あの、す、すみません、仕事を、えっと頼みたいのですが…」
普段家に籠もっていることが多く、あまり人と接することのない生活を送っていた彼女は、緊張しながらその女性に要件を告げた。
「お仕事の依頼ですね。畏まりました。こちらのご利用は初めてでよろしいですね?」
「えっと、こ、個人では……は、はい、初めてです」
仕事の関係で、何度か利用したことはあったが、個人的な利用は初めてなので、そう言った。
「あの、お客様?」
ややこしい言い方をしてしまったので、女性は困惑している。
「初めて…です」
「では、申し訳ございませんが、まずはこちらにご自身の情報をご記入いただきます」
「アマンダ」と胸に名札を付けた女性が、にこやかにカウンターの下から一枚の紙を出した。
そこには『登録証』と書かれていた。
「お名前とご住所、それからご職業をご記入ください。あと、裏に利用規約がございますので、よくお読みになり、ご理解いただきましたらこちらにご署名をお願いします。あとこちらが依頼書になります。今回の依頼内容、期限、報酬などをご記入ください。記入される際は、あちらのテーブルをご利用ください」
アマンダはベテランらしく、淀みなくリリーシュに説明する。
時々「はい、はい」と相槌を返し、リリーシュは紙を持って記載台に移動した。
「いらっしゃいませ、ようこそ」
「この依頼なんだが」
リリーシュが書類の中身を埋めている間も、受付にはひっきりなしに人が訪れていた。
(すごい。初めて来たけど、流行っているんだな」
さすがは王都で一番古く、大きいだけのことはある。不安だったが、これだけ流行っているなら、腕は確かなんだろう。
ここ「ギルド ふくろう」の主な業務は、仕事の斡旋と情報を売ること。
掲示板に貼られているのは、求人情報だ。
情報がほしい人や求人を求める者は、今リリーシュが書いている書類を提出するようになっている。
「できた…」
登録用紙はすぐに書けたが、もうひとつの依頼書を書くのに少々手間がかかった。
何しろリリーシュに取って、初めてのことだから、要領がいまいちわからない。
「あの、これ、お願いします」
最後にもう一度不備がないか確認して、もう一度受付に戻った。
「はい、それでは確認いたしますね。えっと、お名前は、リリーシュ・マキャベリ様……マキャベリ商会の方…ですか?」
アマンダが驚いて彼女を見る。
栗色の髪を三編みのお下げにして、黒と白のワンピースを着たリリーシュは、昔から貴族らしくないとよく言われた。唯一際立っているのは金緑石のように美しい瞳だが、それも分厚いメガネのせいで、覗き込まないとよくわからない。
顔立ちは美人だったという父の母に良く似ていると、父が言っていたが、彼女が産まれた時には既に亡くなっていて、会ったこともないし、第一それは身内の欲目だと思っている。
「まあ、貴族と言っても、父が功績で賜った男爵位ですから、成り上がりみたいなものです」
「そ、そうですか…マキャベリ商会様には、いつもお世話になっております」
「こちらこそ、こちらの情報のお陰で、珍しい品や希望の品を見つけることができて、助かっております」
互いに頭を下げあって、挨拶する。
「それでは……えっと、登録書類はこれで大丈夫です。では、依頼書をお願いします」
「どうぞ」
リリーシュは、もう一枚の用紙を渡した。
「ご依頼は…え、夫…旦那様をお探しなのですか?」
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