完璧な理想の旦那様を募集します 溺愛は条件に入れていませんが

七夜かなた【電子書籍配信開始】

第1話 ギルド ふくろう

「ここね…」


 リリーシュは、とある建物の前に立ち、看板を確認した。


「ギルド ふくろう」


 看板にはそう書いてあった。看板の上には、木彫りのふくろうが飾られ、じっとこちら見ている。

 これまで書類などでやり取りはしていたが、直接ここへ来るのは初めてだった。

 

「ここで見つからなかったら…どうしよう」


 不安が彼女の胸に広がる。しかし、ここ以外頼れる所はもうない。

 意を決して、彼女は扉を開けた。

 中に入ると、そこは広いエントランスホールになっていて、片側には大きな掲示板があり、そこにはたくさんの張り紙がされている。

 その掲示板の前では、何人かがその張り紙を吟味している。

 反対側には、テーブルや椅子が置かれていて、ちょっとした喫茶スペースになっている。


「いらっしゃいませ、ようこそ『ギルド ふくろう』へ」


 リリーシュは真っ直ぐに、中央奥にある受付へと向かう。

 彼女が近づいてきたのに気づき、受付に座っていた三十代くらいの女性が、にこやかに声をかけてきた。


「……あ…あの、す、すみません、仕事を、えっと頼みたいのですが…」


 普段家に籠もっていることが多く、あまり人と接することのない生活を送っていた彼女は、緊張しながらその女性に要件を告げた。


「お仕事の依頼ですね。畏まりました。こちらのご利用は初めてでよろしいですね?」

「えっと、こ、個人では……は、はい、初めてです」


 仕事の関係で、何度か利用したことはあったが、個人的な利用は初めてなので、そう言った。


「あの、お客様?」


 ややこしい言い方をしてしまったので、女性は困惑している。


「初めて…です」

「では、申し訳ございませんが、まずはこちらにご自身の情報をご記入いただきます」


 「アマンダ」と胸に名札を付けた女性が、にこやかにカウンターの下から一枚の紙を出した。

 そこには『登録証』と書かれていた。


「お名前とご住所、それからご職業をご記入ください。あと、裏に利用規約がございますので、こちらをよくお読みになり、ご理解いただきましたらこちらにご署名をお願いします。あとこちらが依頼書にらます。今回の依頼内容、期限、報酬などをご記入ください。記入される際は、あちらのテーブルをご利用ください」


 アマンダはベテランらしく、淀みなくリリーシュに説明する。

 時々「はい、はい」と相槌を返し、リリーシュは紙を持って記載台に移動した。


「いらっしゃいませ、ようこそ」

「この依頼なんだが」


 リリーシュが書類の中身を埋めている間も、受付にはひっきりなしに人が訪れていた。

 

(すごい。初めて来たけど、流行っているんだな」


 さすがは王都で一番古く、大きいだけのことはある。不安だったが、これだけ流行っているなら、腕は確かなんだろう。

 ここ「ギルド ふくろう」の主な業務は、仕事の斡旋と情報を売ること。

 掲示板に貼られているのは、求人情報だ。

 情報がほしい人や求人を求める者は、今リリーシュが書いている書類を提出するようになっている。


「できた…」


 登録用紙はすぐに書けたが、もうひとつの依頼書を書くのに少々手間がかかった。

 何しろリリーシュに取って、初めてのことだから、要領がいまいちわからない。


「あの、これ、お願いします」


 最後にもう一度不備がないか確認して、もう一度受付に戻った。


「はい、それでは確認いたしますね。えっと、お名前は、リリーシュ・マキャベリ様……マキャベリ商会の方…ですか?」


 アマンダが驚いて彼女を見る。

 栗色の髪を三編みのお下げにして、黒と白のワンピースを着たリリーシュは、昔から貴族らしくないとよく言われた。唯一際立っているのは金緑石のように美しい瞳だが、それも分厚いメガネのせいで、覗き込まないとよくわからない。

 顔立ちは美人だったという父の母に良く似ていると、父が言っていたが、彼女が産まれた時には既に亡くなっていて、会ったこともないし、第一それは身内の欲目だと思っている。


「まあ、貴族と言っても、父が功績で賜った男爵位ですから、成り上がりみたいなものです」

「そ、そうですか…マキャベリ商会様には、いつもお世話になっております」

「こちらこそ、こちらの情報のお陰で、珍しい品や希望の品を見つけることができて、助かっております」


 互いに頭を下げあって、挨拶する。


「それでは……えっと、登録書類はこれで大丈夫です。では、依頼書をお願いします」

「どうぞ」


 リリーシュは、もう一枚の用紙を渡した。


「ご依頼は…え、夫…旦那様をお探しなのですか?」

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