第63話 蒼月邸での鍛錬 -3-
金糸で刺繍が施された渋いカーキ色の生地の小さな巾着袋を目の前に置かれ、ただそれをじっと見つめていると、
「蒼月の屋敷に移ったとして、足りないものはあやつが調達してくれるとは思うが、それ以外にも物入りの時にはこれを使うがよい。さあ、開けてみなさい。」
なんだろう?と思いつつも、促されるままに巾着を手に取り開けてみると、中に入っていたのはきれいな小さな石たちだった。
金色の針がたくさん入っているルチルクォーツのような他より大きな石が1つ、アメジストのような小さな石が7つ、そして小さめの水晶が5つである。
それらを手のひらに出して眺めていると、石について長老が説明してくれた。
「金色の針が入っている水晶は
説明を聞きながら、なぜこれらの石を私にくれるのか、その理由がいまひとつ理解できないでいると、長老が私の困惑に気付いたようで、さらに詳しく説明してくれた。
「琴音殿には色々と手伝ってもらったり、食事のたびに人間界についての興味深い話を聞かせてもらったりしたからのう。これはまあ、その感謝の印のようなものじゃな。」
感謝の印という言葉に驚きながらも、長老の思いやりに感謝する気持ちが込み上げてくる。
「え!いやいやいや!私の方こそ衣食住丸ごとお世話になりっぱなしで、お屋敷のお手伝いはそのせめてものお礼なんです。こんな素敵なもの、いただけません・・・」
お礼なんてもらえない。むしろ私の方がお礼し足りていないくらいなのに・・・
そんな私の曇った顔を見て長老が笑う。
「ははは。感謝の気持ちは損得勘定とは違うものじゃてな。感謝している、その気持ちを何かで表したい、と思ったら、わしらはそれを物なり態度なりで示すんじゃ。だから、琴音殿もそういう時は喜んで受け取ってもらえるとありがたい。」
長老の温かい言葉に心が和らぎ、素直にその気持ちを受け入れることに決めた。
「ありがとうございます。何から何までお世話になりっぱなしだったのに・・・」
額が卓に触れるくらい深々と頭を下げると、長老が優しく微笑む声が頭上から聞こえてきた。
「またいつでも遊びに来なさい。」
その声に応えるように、私は顔を上げて明るい声で答えた。
「はい!ありがとうございます!」
話が終わり、いただいた石たちを丁寧に巾着に戻し、再びお礼を言って長老の部屋を出た。
そのまま離れに戻り、今日番所に持っていく荷物に今もらったばかりの巾着を加え、私を待っている間、庭の手入れをする千鶴さんと何やら楽しそうに会話をしている月影さんの元へと向かう。
私の姿を見つけた二人が相変わらず優しい笑顔で迎えてくれたあと、3人で一緒にお屋敷の門まで歩く。
「また遊びに来てくださいね。」
千鶴さんがそう言って、優しく微笑みながら手を振ってくれる。その温かい言葉に、私は感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げる。
「はい!本当に何から何までお世話になり、ありがとうございました!」
少し泣きそうになりつつも、二度と会えないわけではないと自分に言い聞かせて元気よく返事をすると、いつの間にか門まで出てきていた長老も、笑顔で見送ってくれた。
後ろ髪引かれる思いで月影さんと門をくぐり、振り返りながら、屋敷を出る前に深く一礼をし、心の中で精一杯の感謝の気持ちを込めた。
その後、番所に向かう道を歩きながら、私はこれからの試練に対する覚悟と期待を胸に抱く。
(うん、絶対に強くなる!)
もちろん不安も感じるけれど、それよりも強い希望と決意が私を前へと進ませていた。
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