第62話 蒼月邸での鍛錬 -2-
「長老、琴音です。」
長老のお屋敷での最後の朝ごはんは、いつも通り長老、月影さん、千鶴さんと4人で食べた。
こちらに来てまだ3週間なのに、もう随分と長くいる感覚だ。
その朝食後、長老から部屋に来るよう呼ばれ、今、長老の部屋の前に来ている。
「入るがよい。」
そう言われて襖を開けて中に入る。
長老の部屋は広く、厚みのある畳が整然と敷き詰められている。部屋の真ん中には、見事な一枚板で作られた低めの座卓が置かれ、その周囲にはふかふかの座布団が並べられている。壁には色あせた絵巻物や古文書が飾られ、その静かな空気をより一層深めており、窓辺には、細工の込められた木製の仏像が静かに祀られ、部屋全体には荘厳な雰囲気が満ちている。
「まあ、お座りなさい。」
促されて長老の前に腰掛けると、スッと影葉茶が差し出された。
長老は普段は温厚で雰囲気もそのまま優しそうなおじいちゃんなのだけれど、こういう時に醸し出す空気は、背筋が伸びるような厳かな空気で、悪いことをした自覚がなくても緊張してドキドキしてしまう。
「琴音殿がこの屋敷を去る前に、二つ伝えておきたいことがあってな。」
そう言ってゆっくりと長老は話し出した。
「まず一つ目じゃが・・・以前、蒼月はやめておけと言っておきながら、今回蒼月の屋敷に行くようにと言ったことへの矛盾について説明しておくべきだと思うてな。」
いきなり本題で背筋が伸びる。
「あの時は蒼月と関わらんほうが琴音殿のためになると思っての物言いじゃったが、どうにもそうはいかんようでな・・・勝手なことを言って申し訳ないが、これからは蒼月と力を合わせてこれから起こるであろう出来事に対処してほしい。」
これから起こるであろう出来事・・・その曖昧だけど必ずやってくるであろう言い方に胸の奥がドクンと震える。
「それは・・・大きな災害のようなものでしょうか?」
聞いてしまうと余計怖いのは承知なのに、つい聞いてしまう。
「うむ・・・そうじゃな・・・災害というよりは・・・厄災じゃな・・・
いつもは悠然と構えている長老の歯切れが悪いこともあり、おどろおどろしい空気が増してしまい、思わずギュッと両手を強く握ってしまった。
「蒼月さんと力を合わせて・・・とおっしゃいましたが、私なんかが蒼月さんの助けになるとは到底思えないのですが・・・」
これから起こることが何かはわからないけれど、足手まといにしかなってないのに、力を合わせるというのはどういうことなのだろう・・・
その疑問を素直にぶつけてみる。
「わしにも現時点ではよくわからんのだ。ただ、
なるほど・・・私の可能性は未知数ということか・・・・なんてふざけている場合ではない。
その「なにか」がわからない今、何から始めたらよいかさっぱりわからない。
「であれば、もういっそ蒼月のそばに置いてあやつに見極めてもらおうと思ったのじゃ。」
長老はそう言って軽く息をつくと、影葉茶を一口飲んだ。そのタイミングで私も一口いただく。
(あ・・・おいしい・・・)
長老の飲んでいる影葉茶は番所のものより風味が豊かで、高級なんだろうなというのがよくわかる。いや、番所の影葉茶も美味しいけれど。
「あ、でも・・・それと蒼月さんとどういう関係があるのでしょうか?」
今までの話で、私に何か使命があるのはわかったものの、蒼月さんとの関係がわからなくて率直に尋ねてみる。
「蒼月もこの
蒼月さんがどう関係しているかはわからないけれど、この厄災に縁があるもの同士で力を合わせてなんとかしろということだと理解した。
「そうですか・・・わかりました。今の私には何がどうなっていて、自分に何ができるかなんてさっぱりわかりませんが、蒼月さんの指導のもと、まずは自分が強くなることを目指したいと思います。」
元々因縁云々に関わらず、強くなりたいと望んだ弟子入りだ。細かいことや難しいことは今考えてもわからないんだから、今できることをやっていこうと改めて思う。
それを聞いた長老も同じ考えなのか、うなずいて、
「うむ、そうじゃな。まずは自身が強くなることを目指すがよい。ということで、一つ目の話は以上じゃ。で、二つ目は、これじゃ。」
今度は優しい顔に戻ると、私の目の前に小さな巾着袋を置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます