第51話 弟子入りへの挑戦 -5-

「崖」はそんな私を見て少しの間を置いてから、


「残念だが、教えることはできぬ。」


と言った。


(脅かさないでよ!!)


拍子抜けして思わず笑ってしまった私に、


「なぜ笑う?」


と不思議そうに「崖」が聞いてくる。


「いや、できなかったら何をされるのかと戦々恐々としてたので拍子抜けしただけです。だって、できないから。」


思わず本音を漏らした私に、岩は残念そうに続ける。


「できぬ・・・そうか・・・もう何千年も経っているので、そろそろわれを完全に解放してくれる者が現れるはずなのだが・・・」


(長生きだな・・・)


できないものはしょうがないので呑気にそんなことを考えていると、岩がボロボロと落ちてきて、びっくりして「崖」を見上げる。


(え!?え!?)


瞳から落ちる岩はまるで涙もしくは嘆きのようで、地面に小さなせきを作り始めている。

そんなに絶望しているのだろうか・・・何千年という月日は確かに長い。そして、その間ずっとここに「崖」としてあり続けるのは苦痛なのだろう。


(崖の気持ちはさすがに私には分かりかねるけど・・・)


それでも「自由になりたい」と願いつつずっと閉じ込められていたら、と自身に置き換えて考えたら、「崖」の気持ちもわからなくもない。


「ちょ、ちょ、ちょっと!岩が落ち続けたら川が・・・・」


このままでは落ちてきた岩で川がせきとめられてしまう。次から次と岩を落とし続ける「崖」をどうにかしたくて、思いついたことを片っ端から口にする。


「絶望している気持ちはわかるけど、何もしないでいたら解決しないでしょ!」


つい先日、自分も泣くことしかできなかったことを思い出す。

しかし、散々泣きじゃくった挙句、泣いているだけじゃ何も変わらないことに気づき、強くなると決意を固めた自分と重ねて、今この瞬間にどうするべきかを考える。


「誰にでも精神的に追い詰められることってあると思う・・・それで、あなたはどうしたいの?」


あの日の自分と重ねて、「崖」に問いかける。すると、「崖」は少し静かになり、しばらくしてからこう言った。


「・・・自らここに封印したのだが、そろそろ解放されねばならぬ。」


(・・・はい?)


「崖」の言葉を心の中で繰り返す。自ら封印した?それが聞き間違いでないのであれば、自分で解けばいいじゃない。

私は一気に力が抜け、やや呆れた顔で尋ねた。


「自分で封印したのに自分で解けないの?」


素朴な疑問をぶつけると、岩を落とすのをやめた「崖」がため息をついて言った。


「複雑な封印でな・・・この状態までは自らの力と意志で解除できるのだが、完全な解放となると、さまざまな条件が揃わんと解けんのだ。その条件の一つである者がそろそろ訪れるはずなのだが・・・。」


どんな条件かは知らないけれど、自分で封印したのに自分で解けないなんておかしな話だ。


「どんな条件かは知らないけれど、自由になりたいなら自由になればいいじゃない。」


決して投げやりになったわけではなく心の底から出た言葉なのだけど、心からその言葉を発した瞬間、首から下げていた守り水晶が強く眩い光を放った。

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