第50話 弟子入りへの挑戦 -4-
壁を見上げるものの、絶望しかない。
(これはさすがに無理よ・・・)
ロッククライミングでも趣味にしていない限り無理と一目でわかる断崖絶壁と言ってもいい崖を目の前にして、どうやって登るかを考えながらふと見上げるが、どう考えても無理という言葉しか出てこない。
(ここからが本当の試練かもしれない・・・)
崖の前に立ち、どうにかして越えなければならないという焦りを感じながらも、周囲を見回して助けを求めることに決めた。天狗山の頂上にたどり着くために、この地の知識を持つ者がいるはずだ。
「どなたかー。私に知恵を貸してくれる方はいませんかー?」
自分でもちょっとバカみたいだとは思ったけれど、とりあえず今できることはこれしかないのだから仕方ない。
そう言いながらあたりを見回していると、崖から岩がカラカラと落ちてきて、そこに目が止まり、その瞬間、どこからかこちらを見ている視線を感じた。
しかし、それといった姿は見えない。
気のせいかなと別の方向に顔を向けると、またカラカラと小さな岩が落ちる音がする。
そこで、岩が落ちてきたあたりの上を見上げてみる。
すると・・・
「ようやく気づいたか。」
低くゆっくりとした声で私にそう言ったのは、「崖」そのものだった。
(これは・・・・)
小さい頃に何度も読んでもらった、お母さんが子供の頃好きだったという物語にも同じようなキャラクターが登場するのを思い出し、少しだけ感慨に耽る。
「こんにちは。」
その物語に出てくる岩の精?モンスター?はとても優しかったので、警戒せずに返事をしてしまったが、問題なかったらしい。
「人間がこの山に来るのはまっこと久しぶりであるな。さて、今日は、どういたした?」
「崖」が言葉を発するたびに、小さな岩が落ちてくる。
「崖の上に行きたいのですが、さすがに登るのは難しくて・・・他に山頂に通じる道はありませんか?」
これだけ上から見渡せるのだから、ほぼこの山の全てを知っていてもおかしくないなと思いながら尋ねてみると、
「あるぞよ。」
と心強い返事の後で、
「ただし、教えるには1つだけ条件がある。」
まあ、そうですよね。物々交換の世界ですもんね。はい、そんな気はしてました。
「条件というのはなんですか?」
善意を期待しすぎてはいけないという教訓だなと思いながら、答えると、
「私をここから解き放って自由にしてくれないか?」
と、とんでもないことを言い出した。
(壁を登るより無理でしょ。でも、そんなこと言ったら怒らせてしまうかも・・・)
言葉に詰まる私を見て、「崖」がさらに問いかけてくる。
「それができるなら、山頂への行き方を教えよう。しかし、それができぬのなら・・・」
思わせぶりな口調に、ごくりと息をのんだ。
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