第48話 弟子入りへの挑戦 -2-

後をついて広間に戻ると、蒼月さんは書棚から巻物を取り出し、卓の上に広げた。

それはどうやら地図のようで、この番所が真ん中に書かれていることから、道案内か何かの地図なのだろうと思われる。


(市ノ街ってこんな感じなんだ・・・)


メインストリートと夜市くらいしか行ったことがなかったので、どれくらいの広さの街なのかを想像したこともなかったけれど、そこそこ広そうだ。

道が縦横に伸びていて、各所にいくつものランドマークが記されている。


「本当にやる気か?」


珍しそうに地図を覗き込んでいる私に表情も変えずにそう尋ねる蒼月さん。


「もちろんです。」


表情を引き締めて答える私。何がなんでも弟子にしてもらわなければ困るのだ。

少しの間、私の真意を確かめるかのようにじっと私を見た後、軽くため息をついた蒼月さんは、


「命を危険に晒す気はないが、身の危険を感じた時はすぐに中止するように。」


そう言って地図の端の方を指さして、


「試練の回数は決めない。私の気が変わるか、おまえが諦めるかするまで続ける。まずは、何日かかっても良いので、この天狗山に行き、天狗の鷲尊わしみことに会ってこい。鷲尊わしみことからの試練を克服できたら、ひとつ目は合格としよう。」


と言った。


「天狗山までは徒歩でどれくらいですか?普通に登れる山ですか?」


それくらいは教えてくれるかなと思ったけれど、


「行ってみたらわかる。」


と言って、何も教えてくれない・・・


「私は何も教えないが、誰かに聞くのは禁止はしない。この地図が必要なら持ち出しても良い。ただし、汚さずに返すこと。」


蒼月さんはそう言うと立ち上がり、


鷲尊わしみことには今日中に話をしておく。無事を祈っているぞ。」


と、広間を後にして鍛錬に戻っていってしまった。

その背中を見送りながら、


(予想以上に冷たい・・・)


弟子入りなんて簡単にはできないと思っていたけれど、想像以上にハードルが高そうで少し凹む。

しかし、「まあ、いっか。」ばかりの私だけれど、これだけはやると決めたらやるのも私。

とりあえずこれ以上しつこくあれこれ聞いても何も答えてくれないだろうと悟った私は、一度お屋敷に戻って情報収集をすることにした。








お屋敷の門をくぐると、千鶴さんと月影さんがちょうど庭で話をしているところだった。

千鶴さんの優しい微笑みに迎えられて、緊張していた気持ちがふわりと和らぐ。


「琴音さん、どうなさいましたん?」


千鶴さんの声に安心感を覚えつつ、私は事情を話し始める。


「実は、蒼月さんに弟子入りを申し出たんです。でも、弟子は取らないと言われて・・・それでも食い下がったら、気が変わるかはわからないけどやる気を見せろと言われて。その試練の一つで、明日、天狗山に行くことになったんです。」


千鶴さんと月影さんは顔を見合わせ、少し驚いた表情を見せた。


「天狗山か。まさか、一人で行くわけではないよね?」


月影さんが少し困惑したように言う。


「えっと・・・その、まさかです。」


ははは、と力なく笑いながら、まさかと言われるほどの場所なのか・・・と少し不安になる。


「一人で鷲尊わしみことかあ・・・蒼月さん、なかなか厳しいな。」


苦笑いをしながら私に哀れなものを見る目を向けた月影さんに、


「影さん・・・確かに鷲尊わしみことは気難しい妖怪ですが、彼に会うことできっと何かを学ぶことができますえ。せやけど、どうか無理はなさらんといてくださいね。」


千鶴さんが優しく言葉を添える。彼女の心遣いに感謝しつつ、私は深くうなずいた。


「はい、ありがとうございます。まずは情報を集めて、しっかり準備をして臨みます。」


そう誓いを新たにして、私は天狗山への挑戦に向けて心を整えた。


その後、天狗山への行き方、注意点などを二人から教えてもらったものの、これから始まる試練の旅に、不安と期待が入り混じる。

調べによると、天狗山は険しい断崖と深い霧が特徴の山で、登る者にとって試練そのものだ。

山の頂上にたどり着くためには、絶壁のような崖を登る必要があり、その途中には滑りやすい岩や突然の天候の変化が待ち受けている。

さらに、山の気候は変わりやすく、昼夜の温度差が激しいため、適切な装備と体力の維持が不可欠である。山中に潜む霧や霧の中に隠れた岩場により、視界が極端に悪くなることも多い。こうした厳しい条件下で試練を乗り越えるためには、冷静な判断力と耐久力が求められる。


それでも、私の決意は固まっていた。

強くなるために、そして誰かを守るために、私はこの試練を乗り越えてみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る