第47話 弟子入りへの挑戦 -1-

湯浴みと食事を終えて離れに戻り、部屋の窓を開けて夜空の三日月を見つめながら、今夜の出来事を思い出す。

あの出来事を経て、私の中で何かが変わった。


思い返せば、あやかしの世界に来てから私はずっと守られてばかりだった。

蒼月さんや月影さん、千鶴さんや翔夜くんに守られ、助けられてきた。


でも、今日は違った。


蒼月さんが私を守るために怪我をした。

その姿を見たとき、胸が締め付けられるような思いがした。

自分の無力さを痛感したことで、私はただ守られるだけの存在ではなく、誰かを守れる存在になりたいと強く感じたのだ。


(うん、私、強くなる!)


そう心に誓った私は、早起きをするために、それからすぐにお布団に入った。





翌朝、私は決意を胸に蒼月さんのもとへ向かった。

番所の門前で立ち止まり、深呼吸をして気持ちを整える。

蒼月さんに弟子入りを申し出ることを考えると、心臓が早鐘を打つように高鳴る。だが、このままではいられない。


普段は昼下ひるさがりの刻(12時〜14時)の中頃に番所に向かい子供たちと授業を受けるため、蒼月さんはすでに見回りに出た後なのだ。

いつ番所に行けば蒼月さんに会えるのか月影さんに聞いてみたところ、大抵は朝霧あさぎりの刻(8時〜10時)に番所で小一時間ほど鍛錬をした後、見回りに出かけるという情報を入手した。

なので、その時間を目掛けて番所を訪れたのだ。


門を開けると、そこには朝の光を浴びながら鍛錬に励む蒼月さんの姿があった。

彼の動きはいつもながらに洗練され、美しく、それでいて恐ろしく強靭だった。

しばらくして入り口に立つ私に気付いて動きを止めたことを確認し、私は彼に近づき、一度深く頭を下げてから口を開いた。


「蒼月さん、昨日はありがとうございました。」


そんなことを言いにわざわざきたのか?という顔をした蒼月さんは、


「もう礼はよい。気にするな。」


そう言って、また鍛錬を再開した。しかし、私の本題はこれからだ。


「お願いします。私をあなたの弟子にしてください!」


まっすぐに蒼月さんを見て力強くお願いするも、蒼月さんは動きを止めずに、ちらりと私を見るだけで答えなかった。しかし、その眼差しには驚きと戸惑いが一瞬だけ垣間見えた。


「お願いします!」


再度頭を下げて懇願するも、


「断る。」


それだけ言って鍛錬を続ける蒼月さんに、私はさらに頭を下げる。


「どうしても強くなりたいんです。蒼月さんのように、誰かを守れる存在になりたいんです。」


しかし、私の方には目もくれず、腕を振りながら冷たく言い放つ。


「おまえはまず自分の身を守ることを考えろ。」


(うう・・・おっしゃる通りではあるんだけど・・・)


「それはそうですけど・・・でも・・・強くなりたいんです。」


彼の動きが一瞬止まり、視線をこちらに向けた。


「簡単に言うな。強くなることは容易いことではない。弟子入りを望むなら、それ相応の覚悟が必要だ。そもそも、私でなくとも良いだろう。月影や翔夜も十分強いぞ。」


それはそうなんだけど、あの二人ではダメなのだ。これにはちゃんとした理由がある。


「あの二人が強いのはわかっています。でも、蒼月さんじゃないとダメなんです。」


「なぜだ?」


「あの二人は私にとても優しいので・・・・厳しい修行をするのであれば、私を疎ましいくらいに思っている人じゃないと・・・」


多分あの二人の修行はとても優しいものになると思うのだ。


「なるほど。確かにそれであれば私が適任だな。」


自分で言っておいてなんだけど、やはり疎ましく思われてるということがわかり、少し凹む。


「厳しすぎて途中で逃げたくなるのではないか?」


冷たい目でまっすぐ私を見たまま蒼月さんが問いかけるので、私も負けじとまっすぐと見返してはっきりとした口調で答えた。


「逃げません。覚悟はできています。」


その言葉に蒼月さんは深い溜息をつき、


「私は弟子は取らない。しかし、私の気を変えさせたいのであれば、まずはその覚悟を見せてみろ。」


そう言うと、振っていた木刀を壁に立てかけ、付いて来いという身振りをして、番所の中へと入って行った。

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