第27話 あやかしの世界を学ぶ -4-
それからしばらくの間、朝晩は長老のお屋敷の家事手伝いをし、日中は番所に赴き、子供たち向けの学びに参加した。
日々の生活は少しずつ慣れてきたけれど、毎日が新鮮で驚きと学びに満ちていた。
例えば、朝の家事手伝いでは、普段見慣れない妖具や不思議な道具の使い方を教わる。
妖具は妖力がない者でも使うことができるようになっていて、蒸し器の代わりに使う霧を発生させる壺や、掃除の際に使う風を操る扇など、どれも興味深く、長老の屋敷の生活そのものが一種の魔法のようだった。
妖力のないあやかしがいるなんて少し驚きではあったけど、妖力は体力に依存することも多く、子供やお年寄りだけでなく、体力を使いたくない時・・・まあ、一言でいえば楽したい時に使うらしい。
番所での授業内容は多岐に渡り、文字や言葉や歴史はもちろん、結界の張り方や妖術、武術なんかも教えてる。あ、私は妖力もないし体格も子供ではないから、後者のは見学だけど。
また、一緒に授業を受けている子供たちから私の話を聞いているのだろう、千鶴さんがいなくても声をかけてくれる妖怪が日に日に増えていった。
そして、今日は番所の壁に貼られている地図を用いた土地についての授業で、なんと、意外なことに翔夜くんが先生だという。
もちろん私も参加しているわけだけれど、いやはや、あやかしの世界も広い。
まずは私たちが今いる「市ノ街」。
この街は、あやかしの世界でも比較的歴史が新しい街で、できてから800年ほどなのだそうだ。
(800年前というと、日本では鎌倉時代か・・・それが新しいって・・・)
翔夜くんは地図を指しながら話を続ける。
「市ノ街は他の街から妖怪たちが集まり、交流を深めるためにできた街なんだ。ここにはたくさんの交換市が開かれていて、色んな物が手に入るよ。」
歴史の深さをまざまざと感じながら、続きに耳を傾ける。
市ノ街の周りには他にも6つの街があり、それぞれ自然界のエレメントとの繋がりが深いらしい。
翔夜くんが地図を指しながら一つずつ読み上げると、あちこちで子供たちが目を輝かせる。
「あ!そこ、ばあちゃんちがある!」
「おいらのねえちゃんがお嫁に行ったとこだ!」
「今度家族でそこに行くよ!」
みんなそれぞれ思い入れのある土地についてあれこれ話している。そんな中、翔夜くんが私を見た。
「琴音ちゃんは知らないと思うから説明すると、これらの街には市ノ街の入り口にある境の渦(さかいのうず)で行き来ができるよ。」
街の入り口にある境の渦・・・少し前の記憶を呼び起こす。
「ああ!あの色々な色の渦ね!」
やっぱり移動手段だったのね、と納得するとともに、すごいなあと感心する。
翔夜くんは少し真面目な顔になり、さらに説明を続けた。
「他にもさらに外の世界に行くためには異界の門(いかいのもん)を使うんだ。」
少し顔を曇らせた翔夜くんがふぅとため息をつく。
「今はこの門が使えないから、簡単に人間界や外の世界に行くことはできないんだけど・・・」
その言葉に子供たちが一斉に不満を口にする。
「今年やっと人間界に遠足行けるはずだったのに、行けなくなった・・・」
「にいちゃんがよく人間界のお菓子持って帰ってきてくれたのに、しばらく食べてない・・・」
「お菓子食べたい〜・・・」
「ぼくは人間界の絵本が大好きなんだ。新しいの読みたかったのに!」
私より年上だと言い張る割に、みんなのがっかりする理由がかわいい。
「なんで門が使えなくなっちゃったの?」
確かに、そんな門があるならすぐ人間界に帰ることができたのに、と素朴な疑問をぶつける。
「門の番人の影渡(かげわたり)ねーちゃんが突然いなくなっちゃったんだよ!」
その疑問には、翔夜くんではなく、小さな雪女の雪華(せっか)ちゃんが教えてくれる。
人がいなくなるとか事件じゃん・・・そう思って翔夜くんを見ると、翔夜くんは少し困った顔で答えた。
「それについては全力で調査中だから。みんなも早く影渡が帰ってくるように祈っててな。」
そう言って雪華ちゃんの頭をそっとなでて、
「で、話が逸れたけれど、これらをひとまとめにしてあやかしの国と呼んでいるんだ。」
と言った。
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