第28話 あやかしの世界を学ぶ -5-
授業の後、いつものように子供たちのいなくなった広間でお茶をいただく。
いつもだとこのくらいの時間に蒼月さんが見回りから帰ってくる。
まあ、帰ってはくるんだけど、私には特に興味も示さず、私とお茶を飲んでいる月影さんや翔夜くんと伝達事項を取り交わすと、すぐに奥に入ってしまう。
「そんなわけがないだろう。」
蒼月さんが強い口調で入ってきたのに驚いて視線を向ける。
(うわ、めずらしい・・・冷静沈着を地で行く人なのに・・・)
そんな蒼月さんの後を、白い着物に白い肌、千鶴さんにも負けず劣らずの美女が小走りでついてきて、
「でも・・・」
そっと白い手で蒼月さんの袖をつまむ。
(困った顔でも美人って美人なんだな・・・)
「心配ない、おまえだけだ。」
その言葉に胸がドクンと波打つ。
(え・・・?どういう意味?)
「蒼月・・・」
よく見ると、その瞳にうっすらと涙を浮かべた美女が蒼月さんを見上げ、蒼月さんも美女と目を合わせる。
そんな二人のやりとりをぼんやりと見ていると、ハッと私たちに気づいた蒼月さんは、
「氷華、こっちへ来い。」
そう言って、彼女の肩を抱き寄せて奥に入っていってしまった。
(うわ〜・・・・すごい絵になる二人だった・・・・・・)
ズキンと胸は痛んだけれど、それよりも美男美女のドラマのようなやり取りに、ただただ呆然としてしまう。
「どうしたんですかね。」
おせんべいを齧りながら、翔夜くんが月影さんを見る。
「二人のことには深入りしない方がいいぞ。」
その言葉を聞いて、改めて胸が痛む。
(そうだよなー・・・あんなに素敵な人に恋人がいないはずがない。私、何考えてたんだろ。)
勝手に燃え上がって、勝手に失恋した気分になる。
「まぁ、あの二人は特別ですからねー。」
翔夜くんの言葉にとどめを刺されて気分が落ち込む。
おかしいなあ。かっこいい!っていうだけのただの推し感覚だったはずなのに・・・
(まあ、推しの恋愛や結婚もダメージ大きいっていうし、そんなもんかあ・・・・)
急に言葉少なになった私の顔を、翔夜くんが覗き込む。
「あれ?どうした、琴音?なんか元気なくね?」
「え・・・そんなこと・・・」
こんな気持ち悟られまいと笑顔を作った私に、
「わかった!連日の授業で疲れてんだろ。しかたねえなー、今日は特別に夜市に連れてってやるよ!昼の市とは雰囲気も品も違って面白いぞ。」
名案だ!と言わんばかりに手を打つ翔夜くん。
そんな翔夜くんに、
「疲れてると言いながらまだ連れ回すとか、意味わからんな。しかも、おまえ・・・今日、夜市の見回り当番だろうが。」
と呆れた顔を向ける月影さん。
夜市・・・なんだかその魅力的な響きに惹かれ、どうにもパッと気分転換したい気持ちが相まって、
「行きたい!」
机に両手をついて立ち上がりそうな勢いで言うと、
「ほら!琴音ちゃんも行きたいって言ってるし!見回りはきちんとしますよ、いつも通り。」
勝ち誇った顔を月影さんに向ける翔夜くんに、思わずプッと吹き出してしまう。
それを見た月影さんは少しだけホッとした顔をすると、
「本当にちゃんとやれよ。そして、きちんと琴音ちゃんを長老の屋敷まで連れて帰ってくること。わかったな。」
そう念を押して、お茶を飲んだ。
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