第28話

12月の半ば、受験した専門学校から合格通知書が届き、僕はすぐさま担任の先生に報告をした。進路が決まり、あとは1月末のITパスポートと情報処理検定の試験を控えるのみとなった。進路報告が無事に終わって間もなく、2学期が終わり、高校生活最後の冬休みに入った翌日、僕は母と共に母の実家である岐阜の祖父母と伯母のもとを訪ねた。入学金と1年間の学費のことを頼みに行くためである。

母の実家は、長年豆腐屋を営んでいる自営業で、祖父は中学卒業から約60年近く、豆腐屋一筋でやってきた、いわば職人であった。思えば、僕が脚本家という専門的な職に就きたいというのは遺伝だったのかもしれない。

専門学校に行く話は、母と祖母を通じて、既に祖父の耳に入っていた。中学卒業から、裸一貫で豆腐屋をやってきた祖父は、何よりも『金を稼ぐこと』にはシビアな人だった。二言目には「おまんまの食い上げ」という言葉をよく使い、「手に職を持つか、大学だけは行っておけ」と、何かと進路については口うるさく、母も時折そんな祖父に当時うんざりしていたほどだった。


「脚本家になる」と言っても祖父にはあまり通じていなかったようで、「新聞記者になるのか?」と、最初は言われた。だが、そこは祖母や伯母もフォローに入ってくれて、何とか僕が、一種の『芸能の道』へ行くことを理解したようだった。祖父と同じように、「腕一本の職人になりたい」と祖父に告げた。

母が学費を預かり、帰り際にお礼を言った。祖父は新聞を読んだまま「頑張れよ」と、僕と目を合わせずに一言だけ告げたが、その姿は、職人気質の祖父らしく見えた。

年が明けてすぐ、母から銀行に入学金と1年間の学費を入金したと報告を受けた僕は、改めて自分の中で専門学校という新しい生活がすぐそこまで来ているような気がして、期待に胸を膨らませた。同時に、まもなく高校卒業という時期を迎えることを考えると寂しい気持ちでもあった。

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