第21話

生徒会選挙に立候補するにあたり、まだ公の発表もされていない中で、どこから話を聞きつけたのかは知らないが、昨年学校祭の実行委員会を共にした、元生徒会役員のMが推薦演説を自ら志願してきた。

僕としては、生徒会経験者が推薦演説をしてくれることは、これほど心強いものはないと思い、早速二人による選挙に向けての準備が進んでいった。

Mが教えてくれたのだが、推薦演説とのペアが男女のほうが、男子からも女子からも票がもらいやすいと言う。まさかそんな裏技というか、作戦があるとは思ってもみなかったので、やはり経験者が側にいてくれるのは、本当にありがたいものである。

だが、『女の敵は女』という言葉があるように、少なからずMのことを快く思わない同性もいるもので、選挙期間中、Mに関する根も葉もない噂を耳にしたこともあった。だが、そんなことは僕にとってどうでも良く、何より推薦演説に名乗りをあげてくれたことには感謝しかなかった。


選挙当日、体育館の舞台上での演説が始まった。全校生徒700何人もの前で話すのは、半年前の選挙以来。Mは流暢に、スラスラと演説をしていく。一方の僕は、緊張に緊張を重ね、春にもかかわらず、尋常じゃないほどの手汗をかいていた。正直演説の間、自分が何を話したのかも覚えていない。それぐらい、頭の中は真っ白だった。が、もしここで失敗しても、生徒会選挙にリベンジをした事実に変わりはなく、後悔もなかった。

翌朝、選挙結果が発表された。半年前に味わった辛い出来事が、再び脳裏によみがえる。「ああ、どうせ今回も落ちてるに違いない」と、あれだけ真っ向から選挙に向き合ってきたはずなのに、やはり当選している自信がなかった。投票結果が教室の掲示板に貼られる前に、担任の先生が結果を見ながら「当選おめでとう!」と言ってくださった。一瞬、僕には何が何だか理解できなかった。だが間違いなく、僕は生徒会選挙に当選をしていたのだ。

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