付与術士は追放されませんでした ~追放しなかった勇者パーティーの物語~

トス

プロローグ

 現在、僕は異世界に勇者召喚されていた。


「勇者たちよ よくぞ我が呼びかけに答えてくれた どうか魔王を倒してほしい」


 王様らしき人は状況説明をはじめた。説明が終わると……。


「早速で悪いが、お主達の役職ジョブを鑑定させてもらってもいいかの」


 そうして召喚されて早々、役職ジョブ鑑定が始まった。


「コウタ 役職ジョブ『勇者』」

「マイカ 役職ジョブ『賢者』」

「エリカ 役職ジョブ『聖女』」


「おお、素晴らしいぞ。 流石は勇者召喚された者たちだ。 よし、次はお主だな」

 

 この調子でいくと、僕にも『聖騎士』とか凄い役職ジョブが与えられているんだろうか。


「シュン 役職ジョブ『付与術士』」


 付与術士ってどうなんだろう?


「付与術士……ハズレ役職ジョブか。 それなら、冒険者を連れてきたほうがマシじゃないか」


 あれ、これって……。


「シュン お主は必要ない、追放だ」


 追放ものってやつだ……これから僕は独りぼっちになるんだ。でも、僕のせいだもの仕方ないよね。


「……追放するなら俺は勇者を降りる」


 そう言いだしたのは勇者……確か名前は、コウタさんだ。

 制服を着ている、僕と同じ高校生だろうか。同じ年齢くらいなのに、とても心に余裕を持っていそうな表情をしている。そして、金髪の長身イケメン。いわゆる僕とは真逆のクラスカースト上位の陽キャってやつなのかな。だけど、何でだろうとてもつまらなそうな眼をしているのは。


「どういうことじゃ? 人数が不満であれば、儂から推薦するぞ」

「そういう意味じゃない そこの付与術士を追放するなら俺は勇者をやめる」

「ま、待った! わ、わかった 追放しないから勇者やめないでくれ」

「ふん」


 ? コウタさんの言葉で僕は追放されるところを追放されずに済んだのだった。

 だけど、なんで今初めてあった見ず知らずの僕のためにあんなこと言ったんだろうか。もしかして、言うことを聞く雑用が欲しかったとかなのかな。それでも、追放されるよりはマシだよ僕は――。


 自室を用意したと言われ、僕たちは自室へと一緒に向かっていた。


「あ、あの 初めまして 先ほどは追放を止めていただきありがとうございます」

「気にしなくていい」


 か、かっこいい! イケメンで心までかっこいいなんて!


「ちょっとあんたさあ 私たちが何も言わなかったことに感謝しなさいよね!」

「あ、ありがとうございます……」

「なっ!? 別にそんな素直に感謝しなくてもいいんだからね!」


 この子は賢者のマイカさん。赤髪の身長は平均くらいの八重歯が特徴的な可愛らしい女の子。少し気が強そうで、ぐいぐい来られると僕は困っちゃいます。

 確かにあの場で何も言わなかったマイカさんと聖女のエリカさんにも感謝しなきゃだな。もし、二人のどちらかが追放に賛成していたら僕は今頃どうなっていたか分からなかったのは事実だし。


「エリカさんもありがとうございました」

「……」


 この人は僕が嫌われているかもしれないエリカさん。年齢は今思えば召喚された全員が制服を着ていることから同じくらいなのかもしれない。綺麗な黒髪ロングが素敵で、まさに委員長とかしていそうな清楚美女。僕とは無縁の存在だ。

 そうして、僕たちはそれぞれの自室へと別れた――。


 その後、僕たちは少しの間王城で生活した。僕に対する王城の人たちの視線は冷ややかだったが、コウタさんの視線は温かかった? のでなんとか乗り切ることができた。


 

 ――勇者パーティー旅立ちの日 僕たちは王城の人たちに見送られ、冒険者ギルドへと向かっていた。


「わいわい がやがや」


 冒険者ギルドに着いた。これがファンタジー世界でよくみる冒険者ギルドか! 僕はとても興奮した。


「まずは冒険者登録だ いくぞ」


 あ、一人だけ舞い上がってごめんなさい。


「皆さん初めての冒険者登録ということになりますので、Eランクからのスタートになるのですが宜しいですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「分かりました。 皆さんはEランク冒険者として登録されました。 それでは、よい冒険者ライフを」


 僕たちは受付のお姉さんにギルドの利用方法を教えてもらい、手続きを終えた。


「早速依頼を受けるがいいか?」

「おっけ~」

「分かりました」

「は、はい!」


 僕たちは初依頼、森の薬草採取を引き受けることにした。


「へへ、ねえちゃん そんなところじゃなくて俺たちのパーティーにこいよ~」

「可愛がってあげるぜ~ へへへ」


 大変だ! 僕たちは勇者パーティーといってもそれを知るのは王様とその側近だけだ。王城を出れば僕たちはただの駆け出し冒険者、なめられて当然だ。

 だけど、勇者パーティーのことが広まってないのは僕がいるせいで王様がいじわるしているからかもしれない。僕は追放から守ってもらったんだ、このパーティーに恩返しがしたい! 例え雑用になろうとも僕はみんなの役に立つんだ!


「あ、あの」

「ああ?」

「そ、そういうのよくないと思います……」

「あ? なんだあ、ガキが」


「おい」

「な、なんだ!?」

「今なんて言った?」

「は? だからガキが邪魔するなと」

「うちの仲間に手を出さないでもらえる?」


 僕を庇うようにコウタさんは物凄い形相で相手の男たちを睨んでいた。


「はっ へへ か、からかっただけだろ 冗談だって冗談 マジになんなよ」

「そうか、分かればいい。 だが次ちょっかいかけたら分かるよな?」

「わ、わかったって 悪かったって お、おいお前ら帰るぞ」

「へ、へい!」


 コウタさんの圧に男たちは走り去っていった。


「大丈夫だったかい? みんな怪我はないかい?」

「え、あ ありがとう」

「? 俺たち仲間だろ?」

「う、うん!」


 流石コウタさんだ。


「みなさん新参者共がご迷惑をおかけしました。 申し訳ない」

「コ、コウタさん……」


 コウタさんは頭を下げた。僕は庇ってもらったんだ、コウタさんだけ頭を下げさせるわけにはいかない。

 僕も頭を下げた。すると……。


「かっこよかったぞにいちゃん!」

「あたしあの子好きになっちゃかも!」

「あいつらにはいつも迷惑してたんだ 気持ちよかったよ! ありがとよ!」


 ギルド内はコウタさんの行いによってかとても沸いた。僕もなんだが誇らしかった。


「じゃ、いこうか」――

「うん!」


 薬草採取は野宿を行うと効率が良くなるらしいので、僕たちは野宿に必要なものをそれぞれ準備しに買い出しへ向かった――。


「お、あんちゃん見る目あるね!」

「あ、ありがとうございます ここのお野菜新鮮なものばかりですね!」

「やっぱあんちゃんいいね! 仕入れるとき気を付けてるんだよ」


 僕はまず食べ物の買い出しに来ていた。正直いろいろなものを見て回れる買い物というものが好きだ。お金は王城を出るとき餞別として少しいただいた。

 野菜を見るとき、僕は少しズルをしていた。


「おお あんちゃん、いいやつ選んでいくね! どんどん買ってってくれ!」

「ありがとうございます!」


 僕は野菜を見るとき付与術を使用していた。視力強化という術だ。単に視力がよくなるだけかと思っていたら、どうやら野菜とかの新鮮さもみられるようだった。

 付与術凄い……ハズレ役職ジョブとか言われたけど、僕は付与術士になってよかったかもしれない。

 新鮮なものを買っても腐るじゃんって思うかもしれないけど、そこで登場するのがこれ『マジックバッグ~』。これは、中にものを入れられ好きなときに出せるというものだ。非常に便利で、原理はわからないが中にあるものの時間は止まっているらしい。凄く高かったけど! でも良い買い物だ!

 僕たちはそれぞれの買い出しを終えた――。


「みんな準備はできたか。 さて、初依頼にいくぞ!」

「はい!!!」

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