第2話 みにくいアヒル姫とお母様と謎の声

しかし、今日に限ってユーリはしつこかった。いつもなら、拒否をすれば、スンとした顔をしながらも大空へ飛んでいくのに室内に入る私と一緒に無理やり部屋に入ってきたあげくそのモフモフの体を擦り寄せてくるので全然準備が捗らない。


「ユーリ、だめよ。私これから、建国記念のパーティーに出ないといけないの……そのために準備もしないといけないの」


ユーリは賢い子なのでここまで言えば納得してくれるのに、なぜかずっと邪魔をしてくる。やっと邪魔しなくなったと思ったらいきなりドレッサーの引き出しを開いたり、さらにはドレスが入っているクローゼットの中に何故か入ってしまった。


「だめよ、ユーリ!!メッ!!」


しかたなくユーリを無理やりクローゼットから引っ張り出すと、『クルル』と甘えた声を出して甘えるように私の手に頬ずりをした。


「そんな顔してもだめよ。ああ、もう時間がない。早くしないと……」


急いでお化粧を再開しようとした時、今まで聞いたことがない低い男性の声で、


「思っていた以上に酷い。俺の可愛いルーナをこんなに冷遇するなんて許せんな」


と言われてびっくりして振り返るが、そこにはユーリしかいない。


当然、ユーリは賢い子だが白頭鷲なので鳥は鳥でもインコやオウムのようなおしゃべりは得意な種類ではないはずだ。


「今の声は一体……」


そう言いかけた時、部屋の扉が突然乱暴に開いた。


「ルーナ、支度は出来たのかしら」


「お母様……」


沢山の侍女を連れた美しい私のお母様がそこには立っていた。


今日のドレスは薄桃色で若いご令嬢が着るようなデザインなのが少し不思議だけど、お化粧もアクセサリーも何もかもが私と違って煌びやかだ。


「はぁ、本当に貴方はどんくさいのね。まだドレスを着れていないなんて、早くしなさい」


「……はい」


私はあまり器用じゃない。そのせいでいつもお母様に怒られてしまう。しょんぼりしながら再度鏡に向かおうとした時、再度先ほど聞こえた男の人の声が響いた。


「王妃殿下、そのドレスをどうして貴方が着ているんだ??」


「……誰??」


お母様も驚いたように周囲を見回しているが、当然誰もいない。


「そのドレスは帝国のユリウス皇帝から、婚約者であるルーナ姫に贈られたもののはずだが??」


「なっ、違うわ。誰か知らないけどこんな美しいドレスが贈られるのがルーナのはずありません。全て私に贈られたものですわ」


優雅に扇を仰ぎながら答えるお母様に、私は驚きを隠しきれない。


私には婚約者はいない。国民からみにくいアヒル姫と笑われてしまっている私は国内の高位貴族との縁談はすべて断られてしまい、他国に婚約を打診しているとお父様である国王陛下から聞いてはいたしました。


ただ、だとしてもみにくいアヒル姫である私がこの国の宗主国であるイーグル帝国のユリウス皇帝陛下の婚約者になどなれるはずがない。


「なるほど、そうやってルーナ姫に割り当てられた予算やプレゼントを王妃殿下が横領していたという訳か……。よくわかった」


「無礼者、私を盗人だと言うのかしら??兵士よこちらに来なさい。ルーナの部屋に居る不届き者を捕まえるのよ!!」


そうお母様が叫ぶなり、兵士が集まり私の部屋の中に入ってきた。あまりに色々なことがおきて硬直する私を尻目に部屋の中に兵士が入ったが声の主は見つからないらしく兵士は撤収したが、お母様のご機嫌は最低で突然私を怒鳴りつけた。


「ルーナ!!貴方どこに無礼な男を隠したの??とっとと出しなさい!!」


「……あの、私にもさっぱりわからなくて……」


本当に何が起きたか分からず涙目になる私を、お母様が睨みつける。


(どうしよう……)


「母上、どうされたのですか??」

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